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2017年4月18日(火)から7月2日(日)にかけて東京都美術館にて開催される、「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル『バベルの塔』展 16世紀ネーデルラントの至宝 ― ボスを超えて ―」の記者発表会が10月18日に行われましたので、その様子をレポートいたします。
24年ぶりに来日するブリューゲルの傑作「バベルの塔」と、奇想の画家ボスの初来日する傑作2点をはじめ、同時代の絵画、彫刻など92点で、ブリューゲルと16世紀ネーデルラント絵画の魅力を堪能できる展覧会となります。
ピーテル・ブリューゲル1世(c.1526/30-1569)は、16世紀ネーデルラント絵画を代表する巨匠です。聖書の物語や、人々の暮らし、民話や寓話を生き生きと描き、素朴さの中におかしみや批判的視点を織り込んだ絵画で知られています。版画下絵作家として頭角を表し、後に油彩画の制作も行いました。油彩画は特に希少で現在の真作は40点ほどしか残っていないとされています。
ヒエロニムス・ボス(C.1450-1516)は、終生オランダ南部の町スヘルトーヘンボスで活躍しました。ネーデルラント伝統の写実的な細密描写を生かしつつも、地獄の背景やそこに跋扈する妖怪を想像力豊かに描いた宗教画で、強烈な個性を発揮しました。同時代人たちやブリューゲルら後続世代の画家にも大きな影響を与え、模倣作や画風を踏襲した「ボス風」作品が数多く作られました。
ボスの現存する油彩画はブリューゲルよりも少ない約25点と言われ、そのほとんどがヨーロッパの美術館に所蔵されています。
本展覧会の見どころは、
・「バベルの塔」の驚異の写実
この驚異の写実を実見できます。
・奇想の画家ボスの油彩画2点が初来日
世界中で約25点しかないとされる油彩画の内2点が日本で初めて鑑賞できます。
・ブリューゲル下絵やボス画風などの銅版画が集結
ボスの影響を受けた16世紀の銅版画、またブリューゲルが下絵を描いた銅版画が多数見られます。
その中で私たちの想像力を刺激する沢山の怪物、モンスターが登場します。
・16世紀ネーデルラントの絵画や彫刻
歴史を一覧できます。
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「バベルの塔」は、板に書かれた油彩画です。
ポイント1:壮大な構図を生み出すマクロの想像力
他の画家による14~15世紀の「バベルの塔」の作例が数階建ての塔を建設する人々を描くのに対し、ブリューゲルは地平線まで見渡すパノラマを背景に、巨大は塔を画面一杯に配置。卓抜した想像力によって、かつて誰も思いつかなかった壮大なスケールで伝説の塔を描くことに成功しました。
ブリューゲルは「バベルの塔」を題材に少なくとも3点作品を作ったと言われ、ウィーン美術史美術館の油彩画とボイマンス美術館の油彩画の2点のみが現在まで伝わっています。(残る1点が油彩画かどうかは不明)この2点の内、ボイマンス美術館の油彩画「バベルの塔」を、本展覧会で見ることができます。
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ポイント2:超絶技巧に支えられたミクロの想像力
一説によると「バベルの塔」に描かれて人々は1400人。建設に従事する姿が、米粒ほどの大きさで実に細かく描かれています。割れたレンガ屑の飛び散った様子や、作業員たちが休む飯場など、建設現場の細部は「実際の塔の建設に何が必要か」と想像力をめぐらせて書き込んだものです。細部への執拗なまで想像と細密描写の超絶技巧が、どこにも実在しない塔の描写にリアリティをもたらしました。
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版画制作の際は、画家が下絵のみを描くことが多かった中で、唯一ブリューゲル本人が彫版したと考えられている銅版画。ここでも地平線まで広がる風景が描かています。
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今回、初来日するヒエロニムス・ボス「放浪者」です。
宗教画だけでなく、人々の日常を描いた画家の先駆けと言われるボスが、行商の旅人の一場面を描いた油彩画。
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背後の家には抱き合う男女や小用を済ます男が描かれ、娼館であることがうかがえます。貧しい身なりの旅人は、娼館をただ通り過ぎようとしているのかもしれないし、既に立ち寄って浪費したことを後悔しているのかも知れません。すべての人間は人生という旅の途上で、あらゆる誘惑の前で常に選択を迫られている、ということを示す作品だと考えられています。
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こちらも今回初来日するヒエロニムス・ボス「聖クリストフォロス」です。
巨人が子どもを背負って危険な川を渡っています。だんだん重くなる子どもにその理由を問うと「世界と世界の創造者をともに背負ったからだ」と答えた。そこで巨人は子どもが実はキリストであることを知り、以来「クリストフォロス(キリストを担ぐ者)」と名乗った、というキリスト教の聖人伝をもとにした一枚です。
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背景には水差しのかたちをした樹上の住所や、廃墟の怪物など、ボスならではの謎めいたモチーフがふんだんにちりばめられています。
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「バベルの塔」は旧聖書 第11章に書かれた逸話です。
昔、世界中の人々は同じ言葉を使って、同じように話をしていました。彼らはみんなで一緒に住めるようにしようと、天まで届く塔を建て始めます。この塔を見た神は「彼らは一つの民で、皆一つの言葉を話しているから、このようなことをし始めるのだ。これでは彼らが何を企てても、妨げることはできない。直ちに彼らの言葉を混乱させ、互いの言葉が聞き分けられぬようにしてしまおう。」と言い、人々は逆鱗に触れそこから全地に散らされたので、この町の建設をやめます。神がこの町で全地の言葉を混乱させ、そこから彼らを全地に散らしたので、この町の名はバベルと呼ばれました。
ここで「バベル」とは、ヘブライ語で「混乱」を意味し、このため、この塔は「バベルの塔」と呼ばれました。
「バベルの塔」に描かれている人々、そしてボスの作品に描かれている不思議な世界、奇想天外なモンスターたち、どの作品も細部にわたりじっくりと見たくなるものばかりです。作品の素晴らしさの感動と、そして作品の中に色々なものを見つけるわくわく感が味わえる展覧会になりそうです。
また、ブリューゲルとボスはいずれも数少ない希少な油彩画を見られる機会です。開催されましたら是非ご覧になってはいかがでしょうか。