2016年11月1日(火)から2017年2月19日(日)まで、特別展『世界遺産 ラスコー展 ~クロマニョン人が残した洞窟壁画~』が国立科学博物館で開催されます。10月31日にプレス内覧会が開催されましたので、展示の様子をお伝えいたします。
フランス南西部、緑豊かなヴェゼール渓谷。ジャック、マルセル、ジョージ、サイモンたち4人の少年は、興奮を抑えることができませんでした。彼らは犬のロボを連れて、隠し財宝が眠る伝説のトンネルを探検しようとしていたのです。しかし、愛犬ロボを見失い、彼らは後を追って暗い洞窟の中に迷い込んでしまいました・・・。
そこで、少年たちは見たのです。牡牛や馬、ユニコーン・・・星座のように暗闇の中に浮かび上がる、不思議な動物たちを。
1940年9月、4人の少年たちによって発見されたラスコー壁画は、約2万年前にクロマニョン人によって描かれた最高峰の洞窟壁画です。ラスコー壁画は、彼らクロマニョン人が描いた同時代の壁画の中でも、その豊かな色彩や描かれた動物たちの数や大きさなどにおいて他に比類するものがなく、1979年に世界遺産に登録されました。
特別展『世界遺産 ラスコー展 ~クロマニョン人が残した洞窟壁画~』は、フランス政府公認の巡回展「LASCAUX INTERNATIONAL EXHIBITION」に日本独自のコンテンツを加え、その謎めいた壁画や同時代のクロマニョン人の芸術的活動の一端を、最先端のテクノロジーとともに展示します。
それでは、展示の様子をご紹介いたします。
第I章 ラスコー洞窟への招待—背景と謎に迫る—
地元少年による偶然の発見から、静かな闇に包まれていたラスコー洞窟の環境は激変しました。多くの見物客が訪れ、壁画劣化の危機にさらされてしまったのです。フランス政府は壁画保存のために1963年に洞窟の閉鎖を決断、2001年以降は研究者でさえ立ち入ることはできなくなっています。しかし、本展覧会では1/10サイズの模型で洞窟全体の構造を再現・解説。技術革新による復元方法も紹介しています。
縮小サイズとはいえ、洞窟の中を覗いてみると、とても深くて暗い・・・。手元のランプの灯だけでは、きっと心細かったことでしょう。なぜ、クロマニョン人はあえて深い闇の中で絵画を描いたのでしょうか?
ラスコー洞窟の内部からは、クロマニョン人が使用したと思われる画材や、狩猟のための道具など、様々な遺物が発見されました。展示されたこれらの品々には、まだ使用されたばかりのような生々しさが残っており、クロマニョン人の息遣いを感じられます。
ラスコー洞窟の「井戸状の空間」で出土した、赤色砂岩製のランプ。ラスコー壁画の出土品の中では最も有名な遺物であり、展示の解説をしてくださった国立科学博物館の海部陽介さんも「まさか借りることができるとは思わなかった」と語る貴重なものです。
クロマニョン人は洞窟の奥へ灯としての火を持ち込んだ最古の人類であり、彼らは闇を照らすために、石製のランプを使用しました。石製ランプのほとんどは粗雑な作りだったようですが、この赤色砂岩製のランプは表面が丁寧に磨かれており、燃料を入れるための窪みも美しい曲線を描いていて、洗練された印象を受けます。
本展覧会の最大の見どころ、ラスコー壁画の実物大の復元です!現在では閉ざされてしまったラスコー洞窟の中でも、特徴的な技法で多くの傑作が描かれた「身廊(しんろう)」の壁画群と、神秘的で謎に包まれた「井戸の場面」の絵がよみがえります。壁面を3次元スキャナーで読み取ってポリマー素材で作成、手作業で当時使用された絵の具と同材質のものを使用して、岩の質感にいたるまで非常に精巧に再現されています。
壁画はライトアップされ、隠された線刻が幻想的に浮かび上がります。
トリ人間!?
これは、謎に満ちた「井戸の場面」。この壁画が描かれた「井戸状の空間」はラスコー洞窟で最も深い場所であり、地表面から20mに位置しています。ここにはシャーマン(祈祷師)だけが足を踏み入れることができたのではないかと言われていますが、クロマニョン人が姿を消した今、それを知るすべはありません。
槍が深々と突き刺さり、腸がはみ出たバイソンが角を突き出し、その前には鳥のようなクチバシを持つ男性が倒れています。まるでシュールレアリズムの絵画のような不可解さと神秘性に圧倒されてしまいます。
第II章 クロマニョン人の世界—芸術はいつ生まれたか—
ヨーロッパにおいて、4万5000年以上前のネアンデルタール人の文化には芸術的要素が見受けられません。しかし、クロマニョン人の出現で状況は変わりました。壁画、素晴らしい装飾品や彫像・・・。明らかに人類は創造し、楽しむことを始めたのです。「ラスコー展」では、壁画以外にも、彼らの残した素晴らしい芸術品の数々が展示されています。
会場内には、フランスのアーティストが製作した、本当の人間と見紛うほどのクロマニョン人の復元模型がディスプレイされていますが、その装飾品などは、考古学的証拠に基づいています。この埋葬人骨が身につけている、貝殻のビーズをつけた頭飾りもその一つです。
密封性の高い毛皮の衣類を縫うための細い縫い針。精巧な出来で、現在私たちが使う縫い針とほとんど変わりません!
クロマニョン人は角・骨・象牙・石を素材にして、見事な出来栄えの彫刻を数多く残しています。
ホモ・サピエンス(現代人)の時代になり、突然芽生えた創作欲。「芸術は爆発だ」ではありませんが、彼らが自分たちの本能を、熱く骨や石に刻みつける姿が目に浮かぶようです。
最終章では、後期旧石器時代の同時期、日本においてどのような芸術的活動が行われていたのかが紹介されています。
私たちは、絵を描き、踊り、歌を口ずさみます。「いや、私は・・・」という人も、芸術に感動する心は持っているはずです。その心は、どこからやってきたのでしょう?
「ラスコー展」で示されたのは、その一つの痕跡なのかもしれません。約5万年前、アフリカから、世界に広がったホモ・サピエンス。共通の祖先である彼らが芸術を愛する心を持っていたとしたら、クロマニョン人たちの芸術は、間違いなく、私たちの中にも息づいているのです。
会期は2016年11月1日(火)から2017年2月19日(日)まで。
「三次元で見る『本物』の素晴らしさ、壁画を空間の中で鑑賞する素晴らしさを是非体験していただきたい」と、国立科学博物館の海部さんは語ります。
2万年前に生きていた、私たちの祖先に会いに行く。特別展『世界遺産 ラスコー展 ~クロマニョン人が残した洞窟壁画~』、是非この機会に、足を運んでみてはいかがでしょうか?
開催概要はこちら:
https://home.ueno.kokosil.net/ja/archives/10426