2017年6月20日(火)から9月24日(日)にかけて国立西洋美術館で開催される特別展「アルチンボルド展」の報道発表会が2月13日に行われましたので、その様子をレポートいたします。
「(アルチンボルドの顔の絵は)あまりに素晴らしく構成されているので、まったくのところ、それを見るのは驚きだ。彼が技巧をつくして描いた、他のすべての絵が驚異的なのと同様である」
(ジョヴァンニ・パオロ・ロマッツォ『絵画神殿のイデア』1590年)
1526年、ミラノで画家の息子として生まれたアルチンボルド。彼はミラノや近郊の町モンツァでステンドグラス原画や壁画などを手がけた後、1562年にウィーンの神聖ローマ帝国宮廷に招聘され、その画才を開花させました。
宮廷における祝祭イベントの演出家としても活躍したアルチンボルドですが、彼の名は何よりも、果物や魚、書物といったモティーフを思いがけないかたちで組み合わせた寓意的な肖像画の数々によって知られています。
本展覧会は、世界各地の主要美術館が所蔵するアルチンボルドの油彩約10点や素描を中心に、およそ100点の作品を出品してアルチンボルドのイメージ世界の生成の秘密に迫り、その画業を本格的に紹介する日本初の試みとなります。
本展覧会の見どころを、4つのポイントに絞ってご紹介します。
①奇才の宮廷画家アルチンボルド 日本で初めての本格的な展覧会!
油彩作品数が少なく、借用が大変困難なアルチンボルドの油彩約10点が集結。果物や野菜、魚や書物などで構成されたユニークな肖像画を中心に、その画業を本格的に紹介します。
②代表作《春》《夏》《秋》《冬》 奇跡 の集結!
ハプスブルグ家の神聖ローマ皇帝のために最初のヴァージョンが制作された『四季』。本展では《春》《夏》《秋》《冬》 を日本で初めて一堂に公開します。時の皇帝を喜ばせ、20世紀の芸術家ダリをも驚かせた奇想天外な作品をお楽しみください。
③ハプスブルク宮廷のアートディレクターとしての多彩な活動を紹介
アルチンボルドは画業のかたわら 、宮廷の祝祭行事の企画演出で才能を発揮しました。ルドルフ2世が催した騎馬試合のために画家が描いた数々の素描からは、優れた発想力と素描家としての側面がうかがえます。
④レオナルド派の素描など、アルチンボルドを生んだ芸術的背景を読み解く
アルチンボルド芸術の源泉となったレオナルド派のグロテスクな頭部を描いた素描のほか、ハプスブルク家の皇帝が優れた鑑識眼によって蒐集あるいは注文した同時代の美術工芸品も出品。アルチンボルド芸術の成り立ちを明らかにします。
今回の展示の概要について、本展覧会の監修者である、美術史家、元ウィーン美術史美術館絵画部長のシルヴィア・フェリーノ=パグデン氏よりビデオメッセージが寄せられました。
シルヴィア氏は、アルチンボルドの絵画を「カリカチュア的性格」「ジョーク」という言葉で表現します。
同時代の人間も、アルチンボルドの作品を評して「奇天烈」だと言いました。現代の私たちの目から見ても、アルチンボルドの作品は「奇」「謎」「知」、そして「驚」に満ちています。
暗号を好んで考案していたというアルチンボルドは、高度な知性によって絵の中に謎を込め、彼を囲む宮廷人たちを楽しませていたのです。
器に盛られた肉料理。上下逆さまにすると・・・
ユニークな人の顔に変化します。これは「上下絵」と呼ばれるものです。上下どちらからも鑑賞できる作品は以前にもありましたが、上下で全く異なるイメージが現れるという例は、それまで存在しませんでした。ユーモア性だけではなく、静物画の歴史においても重要な役割を果たした絵画です。
また、アルチンボルドの絵画においてよく指摘されるのが、レオナルド・ダ・ヴィンチとの関連性です。ミラノを拠点に活動したレオナルド・ダ・ヴィンチは、自然観察を重視する姿勢や独特の陰影法において、この地の美術において大きな影響を残しましたが、アルチンボルドもレオナルド・ダ・ヴィンチの影響を直接間接に受けていました。
そのことは、アルチンボルドの絵画にしばしば見られるグロテクスな横顔や空想的なイメージに、レオナルド・ダ・ヴィンチとの関連性を見出すことができます。
続いて、国立西洋美術館主任研究員である渡辺晋輔氏より、本展覧会についての説明がありました。
ハプスブルグ宮廷に仕えたアルチンボルドは、当初貴族の肖像画の模写などをしていましたが、次第に『四季』『四大元素』といった、寓意的な肖像画の連作を手がけ始めます。その理由は判明していませんが、「皇帝を称揚する意図があった」と渡辺氏は説明します。
『四季』の《冬》の服には「M」の文字があしらわれています。これはアルチンボルドが仕えた皇帝マクシミリアンを象徴します。
『四大元素』《水》の頭部には、ウニのような生物のトゲによって王冠が表現されています。さらに、『四季』は「時」を、『四大元素』は「物質界」を象徴するため、アルチンボルドは「時と空間」を統べる者としての皇帝を描いていることがわかります。
アルチンボルドは、これらの「顔」を、花や果物、魚や鳥など、実際に存在する種を精密に描き、組み合わせることで表現しました。アルチンボルドが生きた16世紀は、前世紀末の新大陸発見を経て、世界各地の驚くべきモノや情報が次々ともたらされた時代であり、彼の仕えた皇帝マクシミリアン2世は世界中の植物や動物を収集する自然科学の愛好家でもありました。
レオナルド・ダ・ヴィンチから影響を受けた自然観察の「眼」と、こうした「知のネットワーク」から、アルチンボルドの肖像画は生み出されていったのです。
日本においては、これまで「だまし絵」などで、現代の視点から捉えられ、紹介される機会が多かったアルチンボルドですが、本展覧会では、見直しが進んでいるアルチンボルドの芸術を時代背景の中で捉えなおし、最新の知見とともに紹介します。
「誰もが見たことがある、しかし誰もがよく知らない」画家、アルチンボルド。
その全貌を明らかにする日本初の機会です。是非、アルチンボルド絵画の「謎解き」に挑戦してみてはいかがでしょうか。