2017年3月28日(火)から5月21日(日)まで、東京藝術大学大学美術館にて特別展「雪村—奇想の誕生—」が開催されます。
3月27日に報道内覧会が開催されましたので、展示の様子をお伝えいたします。
かっと目を見開き、天空の龍と対峙する迫力ある構図。左右に吹きすさぶ風。瓶から陽炎のように立ち上る龍。まるで、画面全体が制御できない力に満ち満ちているようです。
雪村周継(せっそん しゅうけい)の代表作、『呂洞賓図』。
呂洞賓は中国で人気の高い仙人ですが、雪村のような新奇で大胆な描き方は、中国の伝統画の中にも見出すことができません。
大胆な構図と、ユニークな形態が特徴的な人物画。細部に独自の世界観が描きこまれた山水画。雪村はその圧倒的な個性と独創性によって、伊藤若冲らに連なる「奇想の画家」の元祖と評されています。
本展覧会では、海外からの里帰り作品を含めた雪村の主要作品約100件と、尾形光琳ら、雪村の表現に影響を受けた後世の画家たちの作品約30件を展示。まさに世界最大規模の回顧展であり、雪村の全画業を一挙に紹介する大変貴重な機会となります。
それでは、展示風景をご紹介いたします。
第1章 常陸時代 画僧として生きる
常陸国部垂(現在の茨城県常陸大宮市)で武家の一族として生まれた雪村は、幼くして出家し、画僧としての道を歩み始めました。第1章では、生国、常陸の正宗寺における「修行時代」の作品が展示されています。
吹きつける突風に翻弄される小舟。生き物のように襲いかかる波濤。非常にダイナミックな構図が印象的です。「風濤図」は修行時代の集大成ともいうべき作品で、もはや教科書的な生硬さはそこには感じられません。のちの「奇想」につながる雪村の個性が遺憾なく発揮されているように思えます。
第2章 小田原・鎌倉滞在 独創的表現の確立
雪村は50歳代半ばで常陸を出て会津へと旅立ち、小田原・鎌倉へと向かいます。
小田原の豊穣な文化や、鎌倉の禅宗寺院に集められた多くの中国文物に触れて、雪村の画技の幅は飛躍的に広がりました。
《列子御風図》は、この時期の雪村を象徴しているようでとても興味深く感じられました。力むことなく、ふわりと風に乗って舞い上がる列子。原典である『列子』にはこう記されています。
「風がわが身に乗っているのか、わが身が風に乗っているのかも全く意識しない境地に達し得た」
第3章 奥州滞在 雪村芸術の絶頂期
風に乗った雪村がたどり着いた、融通無碍の境地。どの作品からも生気がほとばしっています。
本章では、《呂洞賓図》などの数々の傑作が描かれた奥州滞在期の作品が展示されています。まさに本展覧会の真骨頂とも言えるでしょう。
唐の玄宗皇帝の夢にあらわれ、病を打ち払ったとされる神を描いた《鍾馗図》。足元の虎は押さえつけられている、というよりは、手足をばたつかせて鍾馗とじゃれあっているようにも見えます。雪村の「奇」の着想によりユーモラスに描かれた、異色の鍾馗図です。
第4章 身近なものへの眼差し
時系列順に画業の軌跡をたどった第1章から第3章とは異なり、第4章では「身近なものへの眼差し」というテーマで、常陸時代から晩年までに描かれた動植物画を展示しています。
竹を添え木にした菊に、蟷螂と小さな虫が描かれた《菊竹蟷螂図》。個人的にとても好きな作品です。
雪村といえば、《呂洞賓図》に見られるような破天荒な構図や、どこか現実離れした描写が印象的なのですが、彼はその一方で、ささやかなものに繊細な愛情を注いでいたことがよくわかります。
第5章 三春時代 筆力衰えぬ晩年
第5章では、三春に住んで創作を続けた、70歳以降の晩年の作品を展示しています。
最晩年の作品「金山寺図屏風」は、ぜひ会場で見ていただきたい作品の一つです。古来中国では名勝のひとつとして知られる金山遊龍禅寺ですが、雪村は同題材を描いた雪舟とは違い、現地を訪れていません。つまり想像で描かれているわけですが、間近で絵を眺めていると、細部の人物にいたるまでとても緻密に、生き生きと描かれていることに驚かされます。
また、「金山寺図屏風」に限らず、会場では絵の見どころをピックアップして紹介してくれるモニターが備えられています!嬉しい配慮ですね。
第6章 雪村を継ぐ者たち
関東水墨画で燦然たる光を放った雪村。没後もその光は途絶えることはありませんでした。血縁や師弟関係に限らず、雪村に魅せられた画家たちが私淑し、その画業のエッセンスを取り入れ、後世に伝えていったのです。
最終章では、狩野芳崖や橋本雅邦など、雪村芸術を受け継いだ後世の画家たちの作品を紹介しています。
「なぜ雪村はこの絵を描いたのか、なぜ呂洞賓がこのようなポーズをしているのか。全てが謎に包まれています」
今回、作品の解説をしてくださった東京藝術大学大学美術館准教授・古田亮氏は《呂洞賓図》を前にそう語ります。
作品のみならず、その生涯も謎に包まれた画家、雪村。しかし、だからこそ私たちは、純粋に作品の面白さに集中することができるのかもしれません。
「『奇想』とは、ただ型破りなだけではありません。もっともっと雪村を知れば、もっともっと面白くなる。そういう魅力を持った画家だと思います」
会期は2017年3月28日(火)から5月21日(日)まで。
何から何まで「ありえない」。異色の画家、雪村。
是非この機会に、足を運んでみてはいかがでしょうか?
。o0(ゆきむらじゃなく、せっそんじゃぞ)
開催概要はこちら:
https://home.ueno.kokosil.net/ja/archives/13226