2017年7月20日(木)から10月9日(月・祝)まで、東京都美術館にて『ボストン美術館の至宝展』が開催されます。7月19日にプレス内覧会が開催されましたので、展示の様子をお伝えいたします。
アメリカ合衆国において最も古く、また最もよく知られた美術館のひとつであるボストン美術館。1870年に設立されたボストン美術館は、国や州の財政援助を受けず、個人のコレクターやスポンサーからの援助によってコレクションの拡充を続けてきました。収蔵分野は広く古今東西におよび、現在は約50万点の作品がおさめられています。
本展では、世界でも最大の「百科事典的」ともいえる膨大なコレクションの中から、多種多彩な計80点の作品が展観されます。ファン・ゴッホが南フランスのアルルで描いたルーラン夫妻の肖像画、大規模な修理を経て約170年ぶりに初の里帰りを果たした英一蝶の「涅槃図」など、見逃せない作品が集結します。
それでは、展示風景をご紹介いたします。
1 古代エジプト美術
古今東西、多種多彩な分野におよぶボストン美術館の作品群。本展覧会は、古代エジプト美術から始まり、中国、日本、フランス絵画と明快な区分によって作品が展示されており、非常に見やすい構成となっています。
序章を飾るのは、海を越え、時を超えてやってきた選りすぐりの古代エジプト美術コレクション。ボストン美術館はハーバード大学と協力して40年以上も発掘調査を続けており、その成果は今日40000点を超える古代エジプト美術コレクションの核となっているそうです。
ギザの第3プラミッド内部で発掘された、メンカウラー王の座像の頭部。額の蛇や特徴的なあごひげが、王族であることの印を刻んでいます。
本展の特徴は、ボストン美術館のコレクション形成に寄与したコレクターたちに光を当てていることです。私財を通じて「世界最大級の私立美術館」を作り上げた人々がいつ、どのようにして、なぜ世界を旅して美術品を集めたのか、その物語が記されています。国や州の援助を受けないボストン美術館。まさにこうした市井の人々が立役者となり、その志が今日まで受け継がれてきたのでしょう。
2 中国美術
中国美術においても、ボストン美術館は世界有数のコレクションを誇っています。本章の作品の中でも特に印象的だったのが、陳容が13世紀前期に描いた「九龍図巻」。雨を統べる存在でもあり、皇帝の象徴でもある龍。陳容は、有名な九馬図や九鹿図に影響を受け、9匹の龍がこの世ならざる世界を駆け巡るという渾身の大作を描き上げました。
陳容は、この「九龍図巻」について自らこう記しています。
「素晴らしい筆致は、他に匹敵するものがない。神の手のみがこれをなしえたのだと感じられるだろう」
ちょっと自画自賛しすぎじゃないかと思いますが、それも納得の豊かな表現力。ぜひ会場でご覧ください。
3 日本美術
ボストン美術館に収蔵された日本絵画の作品群は、日本国外に所在するものとしては最大のコレクションです。その作品の大半は、19世紀後期に日本を旅したボストンのコレクターたちによってもたらされたものでした。彼らはボストン美術館で顧問をしていた岡倉天心とともに、ボストンやアメリカにおいて日本文化に対する正当な評価を生み出すことに貢献したのです。
釈迦の入滅の様子を描いた、英一蝶の「涅槃図」。高さ約2.9m、幅約1.7mにおよぶ大作で、涅槃に入る釈迦と悲しみに暮れる菩薩、羅漢、動物たちが鮮やかな色彩で描かれています。
ボストン美術館は1911年にこの作品を収蔵しましたが、2016年4月から非公開形式で一蝶の絵画の修復が始まり、2016年8月から2017年5月までは修理の工程が展示室内で公開されていました。約170年ぶりの解体修理を経て、このたび初めて里帰りを果たします。
国内では見ることができない幻の巨大涅槃図。ぜひこの機会にご覧ください!
4 フランス絵画
ボストン美術館の中でも特に強い魅力を放つのが、フランス絵画コレクションです。19世紀後半、文化的刺激を求めてヨーロッパへと旅立ったボストニアンたちは、さまざまな時代に生まれた美術品を愛で、その収集に励みました。モネ、ルノワール、セザンヌ、ピサロ・・・絵画史に名を刻む巨匠たちの作品により構成された本章は、まさに本展覧会のハイライトとなります。
ファン・ゴッホが移り住んだ南フランスの小さな街、アルルで描かれた肖像画。郵便配達人であり、親しい友人でもあったジョゼフ・ルーランとその妻オーギュスティーヌがモデルとなっています。しっかりとした黒い輪郭線が施され、深く濃い色彩で描かれたジョゼフと、花々が装飾的に描かれた背景も目を引くオーギュスティーヌ。それぞれが魅力的な夫妻の肖像画ですが、2点同時に展示されるのはなんと日本で初めての機会となります。
5 アメリカ絵画
本章では、ジョン・シングルトン、ジョージア・オキーフらアメリカの名だたる芸術家の傑作を集めたコレクションが展観されています。こちらも本展のハイライトのひとつと言ってよいでしょう。
「フィスク・ウォレン夫人と娘レイチェル」は、肖像画家として絶大な名声を有していたジョン・シンガー・サージェントの作品。背後に見える母子像に呼応するように寄り添う母と娘の姿が、ピンク、赤、金色の鮮やかなシンフォニーとともに描かれています。
6 版画・写真
そして時代は現代へ。15世紀から現代までにアメリカとヨーロッパで生み出された版画・素描・写真のコレクションが展示されています。ボストン美術館の写真コレクションは版画・素描・写真のコレクションは1887年に誕生。現在では約20万点の作品に来館者がアクセスできる有名な閲覧室があるそうです。
この後、会場は最終章「現代美術」へと続きます。
開会式に、本展スペシャルサポーターの木梨憲武さんが駆けつけてくれました!
一ヶ月前、ボストン美術館で一足早く作品を鑑賞してきたという木梨さん。たまたま街中ではアートフェアの真っ最中だったようで、同じアーティストとして刺激を受けた様子を語ってくださいました。
「今回の『ボストン美術館展』、展示される約80点の作品はいわば世界選抜で、それぞれ何かを感じられるすごい作品しか集まっていないと思います。ごゆっくり楽しんでいってください!」
ちなみに、木梨さんがボストンを訪れた時の模様は後日、BS朝日の特集番組で放送されるとのこと。こちらも要注目ですね。
芸術を愛するボストニアンたちが作り上げた、美の殿堂。
ボストン美術館に誇る古今東西の至宝が、東京・上野に集います。
会期は2017年7月20日(木)から10月9日(月・祝)まで。ぜひこの機会に、足を運んでみてはいかがでしょうか。
開催概要はこちら:
https://home.ueno.kokosil.net/ja/archives/12629