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歌川広重《不二三十六景》と幕末・明治の浮世絵展 体験レポート

8月17日(木)より、上野の森美術館で「歌川広重《不二三十六景》と幕末・明治の浮世絵展」が開催されましたので、その詳細をレポートいたします。

上野の森美術館では、上野が描かれた浮世絵や新版画を中心に約240点を所蔵しています。2015年に開かれた「江戸から東京へ~上野の森美術館所蔵浮世絵・版画展」では2度の展示で125点を公開し、好評を博しました。本展はその第2弾として、前回はスペースの都合により展示できなかった、江戸時代末期から明治時代までの浮世絵52点を、2章に分けて公開しています。広重が描く「不二三十六景」を全36枚展示する他、激動の幕末から明治にかけて波乱万丈の生涯を生き抜いた絵師たちによる、江戸時代とはまた違った浮世絵の世界をお楽しみいただけます。

 



第1章 歌川広重《不二三十六景》と広重の弟子たち
初代歌川広重(1797-1858)は「東海道五十三次」が有名ですが、富士については生涯に2つの連作と1つの絵本を手がけており、その1作目にあたるのが本展で公開される「不二三十六景」です。富士と言えば葛飾北斎の「富嶽三十六景」を思い浮かべる方も多いでしょう。その刊行から約20年後、広重が「不二三十六景」を描く際に北斎を意識したことは間違いありません。しかしながら、広重の富士は北斎のものとは趣が異なります。北斎の富士は鋭角的であり、画中の人物の動き、波や風などの激しい動き、また奇抜な構図などが重要な要素となっているのに対し、広重の富士はどっしりとして実景に近く、人物はほとんど点景として描かれ、あくまで風景が主役となっています。「北斎は造形的な面白さばかり追求している」と述べた広重は、北斎と違う穏やかな風景の中の富士を描こうとしたのです。

22歌川広重「不二三十六景 箱根山中湖水」
嘉永5年(1852)
28歌川広重「不二三十六景 駿河冨士沼」
嘉永5年(1852)

 
江戸名所での1コマをコミカルに描いた「江戸名所道戯(化)尽」。その画号から広重の弟子であると考えられている、歌川広景(生没年不詳)の代表作です。『北斎漫画』の影響を伺うことができ、「筋違御門うち」に描かれた拡大鏡で客を見る人相見は『北斎漫画』からの引用です。

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歌川広景「江戸名所道化尽 十一 下谷御成道」
安政6年(1859)
歌川広景「江戸名所道戯尽 三十四 筋違御門うち」
安政6年(1859)

 

青色を基調とした展示作品が並ぶなか、毒々しいとさえ思える赤色の浮世絵が数点飾られています。これらは「開化絵」と呼ばれ、明治初期の文明開化を描いた作品です。三代歌川広重(1842-1894)もまた、「開化絵」を多数残した絵師でした。

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三代歌川広重「東京名所上野公園東照宮之吉図」
明治13年(1880)

 
第2章 明治の浮世絵
幕臣の家に生まれた小林清親(1847-1915)は、時代に翻弄された絵師でした。鳥羽・伏見の戦いで敗走し、江戸開城に立ち会い、徳川慶喜に従って静岡に降りた清親は、食べていくために剣術興行団に入って各地を流転した後、絵師となりました。清親は、光と影を効果的に用いて季節や天候などを描く「光線画」で知られます。従来の浮世絵のように輪郭線に頼らず、名所を描いても天候や光の描写に重点を置いており、派手な色彩で開化絵を描いた絵師たちとは一線を画しています。彼の作品からは、その近代的な感覚を読み取ることができます。学芸員の岡里さんも「次世代の感覚を持った絵師であり、生まれるのが早すぎた」と話していらっしゃいました。

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小林清親「従箱根山中冨嶽眺望 一月上旬午後三時写」
明治13年(1880)

 

小林清親の早熟な弟子である井上安治(1864-1889)も清親と同様に、江戸時代から大きな変貌を遂げた東京を描きました。師の清親が光線画を描かなくなった明治14年(1881)以降も光線画を描き続け、「東京真画名所図解」シリーズは安治の代表作となりました。

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井上安治「東京真画名所図解 上野ステーション」
明治17-22年(1884-89)

 

浮世絵を通して、私たちはその時代の世相や風景、そして絵師の想いに触れることができます。皆様も是非、上野の森美術館で浮世絵の世界に浸ってみてはいかがでしょうか。

 
【開催概要】
開催期間: 8月17日 (木) 〜 8月27日 (日)
場所: 上野の森美術館
入場料: 一般200円、大学生100円、高校生以下無料
*障害者手帳をご提示の方とその付添者(1名)は無料
開館時間: 午前10時~午後5時
*最終入場閉館15分前まで

 
【イベント】
学芸員によるギャラリートーク
8/19(土)、20(日)、26(土)、27(日)
各回16:00から、約20分
*お申込み不要、ただし入場券が必要です。
 

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