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復元作品《恋人たちのいるラングロワの橋》
1、幻の野心作「ラングロワの橋」
ファン・ゴッホは南仏に到着してまだ間もない1888年3月、アルルの跳ね橋「ラングロワの橋」を一連の油彩、デッサンに描いています。そして、その連作の中に、1つ野心的な作品があったことが当時の手紙やスケッチから読み取れます。
空は黄色、水面はエメラルド・グリーン、人物はオレンジや赤、バラ色など、自然の色から離れた極めて鮮やかな色を使い、まるで浮世絵のような平面的な構成で描かれていたと考えられます。また描かれた風景から、ファン・ゴッホがこの絵をほぼ真北を向いて描いていることが判明しており、このことから絶対に見えることのない太陽を、架空のモティーフとして”わざわざ”この場面に描き込んでいることがわかります。
しかしこの油彩作品は、原因は定かではありませんが、その一部分が≪水夫と恋人≫として現存しているのみ。そして、実際にファン・ゴッホが描いた作品は、制作途中で天気が悪くなってアトリエで仕上げたため、本人としてはあまり満足できない作品になったようです。
2、プロジェクトの道のり
いったい、ファン・ゴッホはどんな絵を描きたかったのか?≪水夫と恋人≫、当時の手紙やスケッチをもとに、ファン・ゴッホ研究者や画家が意見を出し合い、ファン・ゴッホが描きたかった絵、成功作はこうなっていたのではないか、という彼の理想を復元する。というコンセプトでプロジェクトを進めました。
~模写編~
まず行なったのは、現存する部分を模写し、徹底的にファン・ゴッホのアプローチを分析することでした。現場では、構図のみを描いたキャンバスの隣に、≪水夫と恋人≫の実物を並べ、古賀さんが文献をもとに独自で自作した絵具を使って模写を進めました。ファン・ゴッホが一筆で描いたことで偶然生まれたかすれたような線も、細かい筆で緻密に描き込んで再現、しかも一筆書きで描いたように表現しました。
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上:古賀さんが自作した絵具
下:市販の絵の具 色味はもちろん質感が大きく異なる
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模写の様子
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模写部分の完成図 道の色は、手紙に描かれた色指定を採用した
~復元編~
そして、失われた大部分をスケッチや関連作品をもとに再現していく作業は、古賀さんのアトリエで行われました。断片にないモティーフ(太陽、空、樹木、跳ね橋など)は、同年代に描いた作品を参考に描きます。しかし、それらの例とそっくりになるほど捏造感が強く出てしまうため、同じような描き方ながら違う、しかし、紛れもなくファン・ゴッホらしい効果を出す、というきわめて困難な作業を進めています。
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黄色い空、バラ色の道など実験的な作品であったと想像される
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真北の方角に描かれた、あるはずのない太陽
研
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研究者による、様々なアドバイス
3、プロジェクトについて
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北海道立近代美術館での展示の様子
監修:圀府寺 司(大阪大学 教授)
「現存しない作品の復元、という難易度の高い、クリエイティヴな作業です。ご来場の皆様には、この挑戦の現時点での成果をご覧いただくことになります。皆さんのご感想やご助言を生かして今後もこのプロジェクトを進めていきたく思います。」
画家:古賀 陽子
「復元にあたり、ファン・ゴッホの色彩やタッチの絶妙なバランス感覚と力強い表現力を肌で感じ、彼の作品の素晴らしさに改めて感嘆しました。探求をやめないファン・ゴッホの、絵ごとに変わりゆく画風の中に一貫した「ファン・ゴッホらしさ」を発見・表現することは、手探りで困難な作業です。この復元に正解はありませんが、失われた、もう誰にも観ることのできない作品に想いを馳せながら進める作業は、とても貴重な経験です。」
4、関連情報
◎NHK・Eテレ 日曜美術館「熱烈!傑作ダンギ ゴッホ」(9月24日(日)午後8時より放送予定)で、
当プロジェクトの様子が取り上げられます。
http://www4.nhk.or.jp/nichibi/
◎本プロジェクトの復元画家・古賀陽子さんが参加した、世界初・全編が油絵で動く映画「ゴッホ ~最期の手紙~」は、11月3日(金)よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国順次ロードショー!
http://www.gogh-movie.jp/
東京都美術館「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」開催概要はこちら:
https://home.ueno.kokosil.net/ja/archives/12819