2018年2月24日(土)から5月27日(日)にかけて国立西洋美術館で開催される「プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光」の記者発表会が、9月20日に行われました。今回はその様子をレポートいたします。
1819年に王立の美術館として開設されたプラド美術館。その収蔵品は歴代スペイン王たちの美術への熱意と嗜好を反映し、世界屈指の「美の殿堂」と称えられます。スペイン王室の収集品を核にしたその絵画コレクションは7000点を超える膨大なもので、宮廷画家であったベラスケスやゴヤの作品群のほか、ラファエロやティツィアーノ、ルーベンスなど、イタリアやフランドル絵画の第一級の傑作も多く含まれており、スペイン王朝の到達した究極の栄華を今に伝えています。
本展覧会は、西洋美術史上最大の画家の一人であり、同美術館の誇りでもあるディエゴ・ベラスケスの作品7点を主軸に、プラド美術館の至宝70点を展示。17世紀スペインの国際的なアートシーンを再現する、意欲的な試みとなります。
「日本とスペインは友好国であり、両国の関係と交流は400年以上の歴史を持ちます。それは、1613年に日本から初めて派遣された、支倉常長率いる慶長遣欧使節団という歴史的な出来事により始まりました」
冒頭の挨拶に立ったのは、駐日スペイン大使 ゴンサロ・デ・ベニト閣下。「プラド美術館展」の端緒は、両国の交流の歴史を紐解くことから開かれました。来年2018年には、両国は外交関係樹立150周年という節目の年を迎えます。それを記念して、日本とスペインでは幅広い分野での交流事業が予定されており、本展覧会はその口火を切るものとなりそうです。
「今回の展覧会のベラスケスは1599年から1660年の間に生きた画家であり、この時期は日本とスペインの交流が始まった時期と重なります。このことから、本展覧会はわれわれにとって大変意義深いものとなるでしょう」
続いて、国立西洋美術館 主任研究員の川瀬佑介氏により、本展覧会の内容解説がおこなわれました。
ここでは、その作品解説の中から一部をご紹介いたします。
フェリペ4世の長男として生まれ、広大なスペイン帝国の王位後継者であったバルタサール・カルロス(1629-46)を描いた絵画。本作は、フェリペ4世が郊外に作らせたブエン・レティーロ宮殿「諸王国の間」の扉口の上に飾られていました。背景はマドリード郊外のグアダラマ山脈を描いたもので、その写実性とよどみのない流麗な筆致は、本作にスペイン風景画史において傑出した地位を与えています。
ベラスケスの主君であり、稀代の美術コレクターとして膨大な絵画コレクションを築き上げたフェリペ4世の全身像です。王族を描いた肖像画でありながら、華美な装飾を排し、一人の男を極めて率直に描き出しているのが特徴です。また、日本において過去に開催されたプラド美術館展において、拝借できたベラスケスの絵画はそのほとんどが半身像でしたが、今回はこうした全身像が4点も含まれています。
ベラスケスの初期の傑作。20歳になった1618年に描かれた作品です。聖書を題材にしながらも、登場人物は妻フアナ、長女フランシスカ、そして画家本人と、具体的なモデルに基づいて描かれています。狭い空間に人物を詰め込みながら破綻なくまとめた構図の妙、ドレパリー(衣服の襞)が示す各人物の彫塑的な存在感など、ベラスケスが若くして既に非凡な才能を示していたことが見て取れます。
当時の宮廷では障害を持つ矮人や道化たちが「慰みの人々」として仕えているのが常で、ベラスケスは彼らの肖像を数多く制作しました。ここでベラスケスは堅苦しい肖像画のしきたりから解放され、構図やポーズ、表情などにおいて先例のない試みをおこなっています。また、短い足や大きな頭部といった特徴を包み隠さず描き表しながらも、モデルを差別することなく向き合い、その内面や人間性を表現することに成功しています。
印象派の画家マネが「画家の中の画家」と賞賛した、巨匠ベラスケス。19世紀後半まではスペイン国内外で広く知られた存在ではありませんでしたが、エドゥアール・マネらによって「発見」されて以来、ベラスケスは西洋美術史における最大の画家の一人として不動の地位を与えられることとなりました。
ベラスケス、ティツィアーノ、ルーベンス・・・スペイン宮廷の黄金時代が、2018年、国立西洋美術館でよみがえる。
燦然と輝く「美の無敵艦隊」を、目に焼き付けてみませんか。
「プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光」、開催されましたらぜひ足をお運びください。