マディーナ キング・アブドゥルアジーズ図書館所蔵
2018年1月23日(火)から3月18日(日)※まで、東京国立博物館・表慶館にて「アラビアの道-サウジアラビア王国の至宝」が開催されています。1月22日に報道内覧会がおこなわれましたので、その様子をお伝えいたします。
※当初の会期は3月18日まででしたが、5月13日(日)まで延長となりました。
イスラム教発祥の地にして、アラブ人の心の故郷であるサウジアラビア王国。現代においては世界屈指の石油産出国として知られるこの地は、かつて大陸の東西の人々が行き交う文明の架け橋であり、文化交流の中心地でした。
古代より重要な交易路が存在し、諸文明が次々と繁栄したこのアラビア半島には数多の遺跡や遺物が残り、数千年の歴史を持つサウジアラビア王国の文化と文明の豊饒さを今に伝えています。
「アラビアの道-サウジアラビア王国の至宝」では、その躍動的な歴史と文化を示すサウジアラビアの至宝を日本で初めて公開します。100万年以上前のアジア最初の石器、5000年前に砂漠に立てられた人型石柱、ヘレニズム時代やローマ時代の古代都市からの出土品など、約400点の貴重な文化財を通して旅する「アラビアへの道」です。
■展示構成
第2章 文明に出会う道
第3章 香料の道
第4章 巡礼の道
第5章 王国への道
第1章 人類、アジアへの道
果てしない砂漠の景観をイメージするアラビアの地ですが、旧石器時代のアラビア半島は、現代とはまったく異なる景色が広がっていたと考えられています。広い草原に湖や河川が存在し、動物たちが草を食み、群れている・・・そこはまさに「緑のアラビア」でした。やがて農耕・牧畜を営む定住社会が広まり、その周辺には狩猟と遊牧をおこなう集団が出現します。
第1章ではアラビア半島の新石器時代の遺物を中心に展示し、アラビア文明の夜明けへと鑑賞者を誘います。
サウジアラビア南部のマカルで地元民によって発掘された、動物をかたどった石像。首元に帯を装着したウマをあらわす像とされ、ウマの家畜化の歴史を覆す貴重な資料して注目を集めています。
第2章 文明に出会う道
メソポタミアで都市文明が成立した前2500年頃、アラビア湾はメソポタミア文明とインダス文明をつなぐ中継地となり、海上交易の「道」となりました。木材や銅など、周辺地域から集められた資源が海岸地域「ディムルン」を経由して、メソポタミアへと運び込まれていた様子が、メソポタミアで出土した粘土板文書に記されています。
本章では、このディムルンに関わるさまざまな出土物が展示されています。
剃髪姿の男が、胸の前で両手を組んでいます。都市文明成立期のメソポタミア美術にみられる表現で、「祈りのポーズ」とされます。メソポタミアで発掘される同様の石像は2〜30センチほどのものが多いのですが、本作品にはその巨大さや裸の下半身など、独特な表現が見受けられます。
現在のイランに生産拠点があったとされる、精巧な紋様の緑泥岩製の容器。絡みあう2匹の大蛇は、当時好まれて刻まれたモチーフとのこと。どこか宗教的、呪術的な要素を感じさせます。
第3章 香料の道
アラビア半島の南西部で産出する乳香・没薬などの樹脂香料は古代世界において珍重され、産地として富を蓄えた南アラビアは「幸福のアラビア」と呼ばれました。現代において石油を有するアラブと世界各国が関係を結ぼうとするように、香料を獲得するため、世界各国の王がアラビアの支配を夢見たのです。
また、前1000年頃までに運搬動物としてヒトコブラクダの使用が広まると、香料の隊商交易により、アラビアの内陸の交易都市は目覚しい発達を遂げていきました。香料貿易で繁栄した交易都市の遺物を展示する第3章は圧倒的なボリュームを誇り、本展覧会の白眉といえます。
各地をつなぐ隊商の拠点であったカルヤト・アルファーウ。アラビア半島南部に位置するこのオアシス都市は自らを「楽園の都市」と称し、隆盛を誇っていました。こちらはそのカルヤト・アルファーウから発掘された人物像。ゆるくカールした髪や端正な顔立ちなど、明らかにギリシャ・ローマ時代の彫像の影響が見られ、交易都市としての性格を感じさせます。
6歳の少女の副葬品として埋葬されていた黄金の装飾品の数々。この地に金銀や貴石をあしらった家財に囲まれるような、非常に裕福な人々がいたことを示しています。
第4章 巡礼の道
第4章からはイスラム教の世界に足を踏み入れます。預言者ムハンマドが説いたイスラム教は、ウマイヤ朝時代には中央アジアに達し、広大な地域がその恩恵に浴しました。二大聖都であるマッカとマディーナには膨大な巡礼者が訪れるようになったため、歴代のカリフたちは宿泊施設、給水施設などの設備に尽力し、巡礼路は商業路としても大いに発展したのです。
オスマン朝スルターン、ムラト4世により設置されたカァバ神殿の扉。重厚な金属製の扉が荘厳な雰囲気を醸します。1930年代後半まで実際に使われていた、本物の扉です。
私たちの多くにとってイスラム教はなじみの薄いものですが、流麗なアラビア文字や宗教建築の美しさは、宗教観の違いを越えた感慨を私たちの胸に呼び起こします。イスラム教が国境や民族の垣根を越えること。それは、預言者ムハンマドが生前に願っていたことなのかもしれません。
第5章 王国への道
最終章となる第5章では、3度の征服活動を経て現在のサウジアラビア王国に連なる領土を獲得したサウード家とアブドゥルアジーズ王による建国への歩み、そして現代アラブの生活文化を紹介しています。
時を遡り、王国の過去へと目を向けると見えてくるものがあります。
それは、文化や文明の発達はまさに人と人との交流によってもたらされるということです。
香料などの天然資源や、イスラム教という精神的な支柱によって、文明の「坩堝(るつぼ)」となったアラビア半島。「アラビアの道-サウジアラビア王国の至宝」は、約400点の文化財でその知られざるルーツを辿る試みです。
会期は2018年1月23日(火)から3月18日(日)※まで。
ぜひ会場に足を運んで、日本初公開となる至宝の数々をお楽しみください。
※当初の会期は3月18日まででしたが、5月13日(日)まで延長となりました。
開催概要はこちら
https://home.ueno.kokosil.net/ja/archives/19815