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曽我蕭白《雪山童子図》明和元年(1764)頃 三重・継松寺
2019年2月9日(土)から4月7日(日)の期間、『奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド』が東京都美術館にて開催されます。開幕に先立ち、2月8日にプレス内覧会がおこなわれましたので、その模様をお伝えいたします。
日本美術における「奇想」という言葉をご存じでしょうか?
1970年に出版された、辻惟雄氏による日本美術史論の著作『奇想の系譜』では、江戸時代の画家、岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢芦雪、歌川国芳の作品と伝記を、「奇想」というキーワードを通して論じました。辻氏はこの著作によって、それまで流派やジャンルで語られることが多かった日本美術の世界に、エキセントリック、グロテスク、幻想的といった新たな視点をもたらしたのです。
本展では、『奇想の系譜』で取り上げられた画家たちにくわえて白隠慧鶴と鈴木其一を取り上げ、昨今爆発的な人気を博している伊藤若冲ら日本美術界のスーパースター8名の傑作が集結。私たち現代人の目を通して、江戸絵画の奇想天外な発想、その新たな魅力を紹介します。
展示風景
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会場入口。曽我蕭白の描く独創的な仙人図が奇想の世界へと誘う
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本展は画家ごとに章立てされており、トップバッターを飾る若冲の章では代表作《象と鯨図屏風》(寛政9(1797)年 滋賀・MIHO MUSEUM)をなんと冒頭に展示。その大胆な展示構成に驚かされる
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曽我蕭白は『奇想の系譜』が生み出されるキッカケにもなった画家。《唐獅子図》(明和元(1764)年 三重・朝田寺 展示期間:2/9~3/10)では、その奔放な筆使いに目を奪われる
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本展で取り上げる「奇想の画家」たちの活躍年代
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エンターテイナー的な遊び心に満ちた長沢芦雪。こちらの《猛虎図》は米国・エツコ&ジョー・プライスコレクションから来日を果たした作品
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岩佐又兵衛《豊国祭礼図屏風》(愛知・徳川美術館 展示期間:2/9~2/24)。展示空間の広さを生かし、多くの屏風や襖絵が展観されているのも特徴
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中にはこんな「奇想」の作品も・・・。狩野山雪《武家相撲絵巻》(公益財団法人 日本相撲協会相撲博物館)より。人って、ここまで飛ぶものでしょうか(※画面替えあり)
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今回新たに「奇想の系譜」に加えられた白隠慧鶴は、そのユーモラスで軽妙な作風が特徴。強烈な赤と黒のコントラストが印象的な《達磨図》(大分・萬壽寺)は白隠の代表作として最もよく知られたもの
本展は全八章構成。
幻想の博物誌 伊藤若冲
醒めたグロテスク 曽我蕭白
京のエンターテイナー 長沢芦雪
執念のドラマ 岩佐又兵衛
狩野派きっての知性派 狩野山雪
奇想の起爆剤 白隠慧鶴
江戸琳派の鬼才 鈴木其一
幕末浮世絵七変化 歌川国芳
冒頭に日本美術界の「スーパースター」伊藤若冲を配するという構成も大胆ですが、本展を監修した明治学院大学教授・山下裕二氏は
「奇想の画家は若冲だけではありません。そのことを知っていただきたかった」
と語ります。
「奇想」というテーマを横糸に展開される展示作品の数々は、まさに「江戸のアヴァンギャルド」。琳派、狩野派、浮世絵、といった縦割りの発想の展覧会ではこれほどの「奇想」の絵画を目にすることはできません。
また今回、本展で「初公開」となる作品も満を持して登場。これまでの「奇想」ファンも、新たに「奇想」に触れる一般の方も満足できる内容になっています。
展示作品紹介
伊藤若冲 《梔子雄鶏図》個人蔵
本展の調査過程で発見された作品。貴重な初公開作品です。
とにかく若冲といえば「鶏」。若冲は庭に鶏を飼ってその生態を凝視していたと伝えられており、頻繁に画題に鶏を取り上げました。鶏に梔子(くちなし)、という組み合わせは他に類例がないようですが、若冲の庭にはきっとこうした梔子が植えられていたのでしょうか。
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《旭日雄鶏図》米国・エツコ&ジョー・プライスコレクション
こちらの《旭日雄鶏図》における威風堂々とした作風や細部の描き込みに比べると、《梔子雄鶏図》はどこか控えめで、淡白な印象を受けますね。落款の書体などからも、《梔子雄鶏図》は30歳代の希少な初期作と見なされているようです。
曽我蕭白《雪山童子図》 明和元(1764)年頃 三重・継松寺
釈迦の生前のエピソードを物語る『本生譚』の一場面を絵画にしたもの。
釈迦が悪鬼の姿に身を変えた帝釈天から「お前が俺に自分の身を食わすなら、経典の下二句を教えてやろう」と試され、樹上からまさに身を投げようとしています。
画面の青色と赤と橙の強烈なコントラスト、そして釈迦の聖性と悪鬼の卑俗さの対比も面白い。蕭白は感画に学び中国の聖人や仙人といった伝統的な故事を多く描いていますが、その独創性と狂気に満ちた激烈な表現で知られていました。
歌川国芳 《みかけハこハゐが とんだいゝ人だ》 弘化4(1847)年頃 個人蔵
一見したところ男性の上半身を描いた肖像画ですが、近づいて見てみると・・・「ええっ?」という奇想の絵画。
本図はさまざまな異国の島を巡った鎌倉時代の武士、朝比奈三郎義秀を描いたものですが、その顔は裸の男性たちの寄せ集めで作られています。まさに「東洋のアルチンボルド」といえるかもしれません。
朝比奈が巡った島々の中には「小人島」なるものもあったということですが、彼を作り上げている男性たちはその小人たち、ということなのでしょうか。絵には「大勢の人が寄ってたかって尊い人をこしらえた。とかく人のことは人にしてもらわねばいい人にならぬ」と教訓めいた言葉が添えられており、見れば見るほど謎が深まる一枚です。
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長沢芦雪《龍図襖》島根・西光寺
現代人をも凌駕する革新性、独創性。しかし、本展で紹介された「奇想の画家」たちが1970年の時点では誰一人として教科書に載っておらず、「その他大勢」の画家に過ぎなかったという事実には驚かされます。
「異端」「異形」の画家たちが切り開いた、新たな日本絵画への道。
教科書は置いて、彼らと出会う旅に出かけよう。
その時あなたは、今よりももっと日本絵画のことが好きになっているかもしれません。
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若冲の鶏や蕭白の鬼など、「奇想」のキャラクターたちをあしらったオリジナルグッズも充実
開催概要
会期 | 2019年2月9日(土)~4月7日(日) |
会場 | 東京都美術館 企画展示室 |
開室時間 | 9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで) |
休室日 | 月曜日、2月12日(火) ※ただし、2月11日(月・祝)、4月1日(月)は開室 |
問合せ | ○公式サイト https://kisou2019.jp ○ハローダイヤル 03-5777-8600 |
観覧料 | 一般 1,600円 / 大学生・専門学校生 1,300円 / 高校生 800円 / 65歳以上 1,000円
※中学生以下は無料 |