2019年9月10日(火)から12月1日(日)にかけて国立科学博物館で企画展「風景の科学展 芸術と科学の融合」が開催されています。メディア向け内覧会に参加してきましたので、今回はその様子をお伝えします!
科学と芸術のコラボレーション?!
自由奔放な芸術。客観的な事実により成立する科学。私たちの脳裏には、いつのまにかそんな「芸術」と「科学」のイメージが刷り込まれています。
しかし、この企画展「風景の科学展 芸術と科学の融合」が追求するのは、「何だこれは?」という感覚的な驚きが「もっと知りたい」と欲求を喚起するという、「芸術」と「科学」のシームレスなコラボレーション。
歴史の中でいつのまにか分化してしまったふたつの領域を再びひとつに紡ぎ直すような、大胆な試みです。
本展を企画したのは、「ロッテ・キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」などの商品デザインで知られるグラフィックデザイナーの佐藤卓さん。会場には写真家・上田義彦さんが撮影した撮影した写真とともに、関連した対象物の標本や科学的解説パネルが展示され、写真という芸術を入口に、深遠な科学の世界へと誘うような展示構成となっています。
果たして、本当に科学と芸術は正反対のものなのでしょうか?
そんな問いかけが会場には溢れています。
展示作品紹介
ガンジス川沿いに集い、沐浴する人々を撮影した作品。私たち日本人にはなじみの薄い、インド特有の猥雑さ、神秘性が入り混じった不思議な風景です。そして、その傍らに置かれているのはガンジスガワイルカの頭蓋骨の標本。
キャプションでは、アフリカから旅立った人類がアジア進出への起点としてこのインドを通過していったことに触れ、多様な人類集団の混合が現在のインドを形成したことを紹介。さらに、現在もっとも絶滅が危惧されているガンジスガワイルカの生態について解説しています。
こうした作品解説には国立科学博物館に所属する26人(!)もの研究者たちが携わり、写真から受けたインスピレーションをもとに、それぞれの見地からユニークな解説を行っています。
冴え冴えとした空気感が伝わってくる、荒涼たる草原。歴史的事件「グレンコーの虐殺」でも有名な、スコットランド北西部グレンコーの風景です。
地学研究者の木村由莉氏がこの写真の傍らに置いたのは、なんとステップバイソンの肩甲骨。木村氏は、最終氷期である約2万年前、日本の本州北部にはこの写真で見られるような風景があったはずで、そこには寒冷地域の草原に適応したステップバイソンが生息していたと解説します。
グレンコーの草原と、ステップバイソンの骨。
単なる科学的解説にとどまらず、写真と標本の組み合わせがさらに詩的な趣を加えているように思えます。研究者たちも写真にインスピレーションを刺激され、自由に想像の翼を広げていることが伝わってきますね。
また、展示会場には京都造形芸術大学教授・竹村眞一氏らが制作したデジタル地球儀「触れる地球」も設置。展示作品の背景となる科学的事実について、直感的な操作で楽しみながら学べるようになっているので、お子さんにもオススメ。ぜひ、会場で試してみてください!
「今、世の中の物事全てが『分けられて』しまっている状態。もちろん『分ける』ことによって教育が発展したという側面はあると思います。しかし、分けられてしまったものをデザイナーとして『つなげる』ことができるのではないかと、ずっと思っていました」
そう語ってくださったのは、本展の企画を担当した佐藤卓氏。
「風景を科学の視点で見る、そういった眼を養うことができるのではないか。そういう思いで今回の展示に携わってきました。本展が、そうしたキッカケになれば嬉しく思います」
写真家が切り取った一瞬の風景。
その背後にある時間の流れを解き明かす「風景の科学展 芸術と科学の融合」は、2019年12月1日(日)までの開催です。
世界にふたつとない博物館の写真展、ぜひ会場でお楽しみください。
開催概要
展覧会名 | 企画展「風景の科学展 芸術と科学の融合」 |
会 期 | 2019年9月10日(火)から12月1日(日) 9時~17時 ※金曜・土曜日、11月3日(日)は午後8時まで ※10月31日(木)、11月4日(月・祝)は午後6時まで ※入館は各閉館時刻の30分前まで |
休館日 | 9月17日(火)、24日(火)、30日(月)、 10月15日(火)、21日(月)、28日(月)、 11月5日(火)、11日(月)、18日(月)、25日(月) |
会場 | 国立科学博物館 |
観覧料 | 一般・大学生 620円 団体 500円 ※2019年10月1日より一般・大学生630円(団体510円) 高校生以下および65歳以上: 無料 |
公式サイト | https://www.kahaku.go.jp/event/2019/09landscape/ |