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特別展「イサム・ノグチ 発見の道」会場レポート (東京都美術館 ~2021/8/29まで開催)

 

東京・上野の東京都美術館では、2021年4月24日から8月29日までの期間、特別展「イサム・ノグチ 発見の道」が開催中です。

「彫刻とは何か」を生涯にわたり模索するなかでイサム・ノグチが歩んだ「発見の道」を、約90件の作品でたどる本展。会場の様子や展示作品についてレポートします。

 

 

彫刻家、イサム・ノグチについて

 

舞台美術やプロダクトデザイン、ランドスケープ・デザインなど、さまざまな分野で類まれな才能を発揮した20世紀を代表する彫刻家、イサム・ノグチ(1904-1988)。

誰もが知る巨匠でありながら、彫刻の作品群を一見すればわかるように、ノグチは独自の彫刻哲学によって一つの形態や素材に固執することを良しとしませんでした。

拠点すらも一つではなく、ニューヨークと日本、ときにはイタリアを行き来しながら創作活動を続けたという、いろいろな意味で「安住しない」人物です。

 

父が日本人、母が米国人という自身のアイデンティティへの葛藤から生まれた寂しさや強烈な帰属願望を創作の糧にしていたノグチですが、その安住を避ける創作姿勢から表出した作品は驚くほど多様で、豊かな表情に彩られています。

「イサム・ノグチ 発見の道」と題された本展は、重要なインスピレーションを与え続けたという日本の伝統や文化の諸相をはじめ、集大成である晩年の石彫に至るまでにノグチが得た出会いを、90件あまりの多彩な作品を通して一望。ノグチが拓いた彫刻の可能性や芸術の境地を体感しようというものです。

 

展覧会名になった、イサム・ノグチ《発見の道》1983-1984年 安山岩 鹿児島県霧島アートの森蔵 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

 

特別展「イサム・ノグチ 発見の道」会場の様子



 

第1章 展示風景 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

第2章 展示風景 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

第3章 展示風景 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

 

本展の会場は「彫刻と空間とは一体である」というノグチの思想に基づいた全3章の展示空間で構成されていますが、全体を眺めてまず気づくのは壁の少なさ。作品が広いフロアに点々と配置されていました。

いわゆる回遊式の展示ということで、感性の赴くままにノグチ作品の世界に没頭することができます。

 

また、一部をのぞき、作品をガラスケースに入れずに展示しているのも特徴です。

「公共の楽しみという目的がなければ彫刻の意味そのものに疑問が呈されてしまう」、「彫刻をなにか切り離された、神聖犯すべからざるものとしてみたことはない」(注1)

と語ったこともあるノグチ。ただの鑑賞物としてではなく、生活のなかにある彫刻の有用性にこだわった彼の作品は、本展のように人々と隔てのない形で展示されることでより生き生きと輝くのかもしれません。

 

第1章「彫刻の宇宙」

 

イサム・ノグチ《黒い太陽》1967-69年 スウェーデン産花崗岩 国立国際美術館蔵 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

イサム・ノグチ《化身》1947年(鋳造1972年) ブロンズ イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵 (公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与) ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

イサム・ノグチ《ヴォイド》1971年(鋳造1980年) ブロンズ 和歌山県立近代美術館蔵 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

 

第1章「彫刻の宇宙」フロアにあるのは、星のように散りばめられた1940年代から最晩年の80年代の多様な作品。

角度を変えるとまるで凹凸がうごめいているように錯覚する《黒い太陽》や、無限の時空間を想起させる《ヴォイド》など注目作品は多いですが、最大の見どころはやはり、展示室の中心で存在感を放つ150灯の「あかり」による大規模インスタレーションでしょう。

 

「あかり」インスタレーション

 

ノグチが1951年に岐阜提灯と出会ってから制作がスタートした、太陽や月の光に見立てた「あかり」。一定の素材や形態に固執することを避けたノグチには珍しく、30年以上かけて200を超すバリエーションを作り続けた、ライフワークとも呼ぶべき特別なシリーズです。

ノグチは「あかり」を単なる照明器具ではなく、和紙を通した光そのものを彫刻とする「光の彫刻」であり、「暮らしにクオリティを与え、いかなる世界も光で満たすもの」(注2)と考えていました。

従来の彫刻の概念を拡張し、「彫刻とは何か」を問い続けたノグチが至った一つの完成形です。

ゆっくりと明滅を繰り返す「あかり」のインスタレーションの下には通路が設けられ、そのなかを歩くことが可能。分け隔てなく世界を照らす柔らかな光に、優しく包まれるような心地よさを覚えました。

 

第2章「かろみの世界」

 

イサム・ノグチ《坐禅》1982-83年 溶融亜鉛メッキ鋼板 イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

 

第2章では、日本文化の在り様に内包される「軽さ」の要素を作品に取り入れようとしたノグチが挑んだ「かろみ(軽み)」の世界を体感できます。

《坐禅》をはじめ、折り紙や切り紙から得た着想をもとに制作された金属板の彫刻は、一枚のアルミニウム板を折り曲げたものや、鋼鉄板を切断して組み合わせたものとさまざまですが、受ける印象はまさに紙さながらの軽やかさ。

平面的でありながらボリュームや奥行きが存在する、ノグチの目指したという「彫刻の重さと物質性の否定」を体現しています。

 

イサム・ノグチ《リス》1988年 ブロンズ 香川県立ミュージアム蔵 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
ノグチがこの世を去る最晩年に制作された《リス》は、丸みを帯びた耳と尾がかわいらしい。

《プレイスカルプチェア》2021年 鋼鉄 茨城放送蔵

 

遊園地の建設プランをもっていたノグチは大型遊具の制作にも着手していて、そのうちの一つが、フロアでひと際目を引く遊具彫刻《プレイスカルプチュア》。波のようにうねるパイプを輪にしたような特徴的なフォルムは、子ども心をくすぐる躍動感と弾むような軽やかさに満ちています。

 

「あかり」インスタレーション
第1章に続き、こちらにも型違いの「あかり」が登場。「明かり(light)」=「軽い(light)」ということで、ノグチの「かろみの世界」を体験するうえでは欠かせない存在。

フリーフォームソファ、フリーフォームオットマン
展示室の片隅ではノグチがデザインしたソファも設置され、自由に座ることが可能。すっとした軽やかな佇まいでなかなかの座り心地でした。

 

第3章「石の庭」

 

イサム・ノグチ《無題》1987年 安山岩 イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵 (公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与) ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

 

香川県牟礼町には、ノグチの野外アトリエと住居をそのまま美術館にした「イサム・ノグチ庭園美術館」がありますが、第3章「石の庭」フロアでは、同館に残る石彫作品を特別展示。牟礼以外でまとめて展示されるのは、1999年の同館開館以来、本展が初となるそうです!

牟礼の豊かな自然の下、石工・和泉正敏の助けを借りて石の本質と向き合い、あらゆるものが照応しあうアトリエで自らの感覚と世界をつなげることで「石の声」を聞くようになったというノグチ。

ありのままの石の姿を残しながら必要最小限の手だけ加えていくというまったく新しい表現方法で、ノグチの集大成とも呼ばれる石彫作品群を制作していきました。

 

イサム・ノグチ《ねじれた柱》1982-84年 玄武岩 イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵 (公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与) ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

 

約3メートル、本展で最も大きな彫刻である《ねじれた柱》は、巨石本来のエッセンスを巧みに生かしながら大胆な削りを入れた大作。不思議なバランスで保たれた威容に圧倒されます。

 

イサム・ノグチ《フロアーロック(床石)》1984年 玄武岩 イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵(公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与)  ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

 

2つの岩を多角的に直線で削った《フロアーロック(床石)》は、研磨された石肌と地肌のコントラストや刃文のように浮かんだ模様に鋭さのある作品。突きつめられた造形美には、作品に向き合ったノグチの気迫がそのまま宿っているかのようでした。


彫刻を「ただ見つめるだけでなく完全に経験すべきなにか」(注3)としてとらえていたイサム・ノグチの作品の世界。ぜひ本展に足を運んで、<ノグチ空間>を全身で体験してみてください。

 

<特別展「イサム・ノグチ 発見の道」概要> ※日時指定予約推奨

会期 2021年4月24日(土)~8月29日(日)
※新型コロナウイルス感染症の拡大状況により会期等変更になる可能性もありますので、最新情報は公式サイトよりご確認ください。
会場 東京都美術館 企画展示室
開館時間 9:30~17:30 (入室は閉室の30分前まで)
休館日 月曜日 (ただし、7月26日、8月2日、8月9日は開室予定)
観覧料 【日時指定予約推奨】
一般 1,900円、大学生・専門学校生 1,300円、65歳以上 1,100円・高校生以下無料
・身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添の方(1名まで)は無料。
※高校生、大学生、専門学校生、65歳以上の方、各種お手帳をお持ちの方は証明できるものの持参が必須。
詳しくはこちらから⇒https://isamunoguchi.exhibit.jp/ticket.html
主催 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション、文化庁、独立行政法人日本芸術文化振興会
問い合わせ先 03-5777-8600 (ハローダイヤル)
公式ページ https://isamunoguchi.exhibit.jp/

 

(注1) イサム・ノグチ/北代美和子訳『イサム・ノグチ エッセイ』、みすず書房、2018年、P23、P96
(注2) ドウス昌代『イサム・ノグチ 宿命の越境者』、講談社、2000年、P318
(注3) イサム・ノグチ/北代美和子訳『イサム・ノグチ エッセイ』、みすず書房、2018年、P197

参考文献:
「『イサム・ノグチ 発見の道』公式図録」(朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション)
ドウス昌代『イサム・ノグチ 宿命の越境者』(講談社)
北代美和子訳『イサム・ノグチ エッセイ』(みすず書房)

 

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