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【取材レポ】国立西洋美術館がリニューアルオープン!コルビュジエが設計した前庭や無料開放される19世紀ホールなど見どころを紹介

 

施設整備のため約1年半の間休館していた国立西洋美術館(東京・上野)が、2022年4月9日にリニューアルオープンしました!

本記事では「近代建築の父」と称されるフランスの建築家ル・コルビュジエ(1887-1965)が設計した、1959年の開館当時に近い姿に戻された前庭や、無料開放される「19世紀ホール」など、リニューアル後の変化を詳しくレポート。

あわせて、新たに開幕した小企画展「調和にむかって:ル・コルビュジエ芸術の第二次マシン・エイジ ― 大成建設コレクションより」、「新収蔵版画コレクション展」についてもご紹介します。

 

開館当時の姿に近づいた国立西洋美術館

 

リニューアルオープン前日に行われた記者発表会・リニューアル内覧会で、ひと足はやく工事後の国立西洋美術館を拝見してきました。

 

国立西洋美術館 南側の入り口からの光景

 

2020年10月から行われた工事では企画展示館の空調や防水設備の更新なども実施されましたが、リニューアルを目に見えて実感できるのは前庭の外観です。

同館の前庭は1959年の開館以来、さまざまな改変が加えられてきました。これは美術館としての機能や利便性を向上させるためでしたが、2016年に本館と前庭を含む敷地全体がユネスコ世界文化遺産に登録された際には、当初の前庭の設計意図が一部失われていると指摘を受けてしまったそうです。

そこで同館では、ル・コルビュジエが設計した意図が正しく伝わるよう、また建物としての価値を高めるよう、施設整備にあわせて前庭を開館当時の姿にできる限り戻すことを決定しました。

 

園路から敷地内がよく見えるように。

 

リニューアル後の同館に足を運んでまず気づくのは、南西側にあった植栽がほぼ撤去されていることと、上野公園の園路から同館の敷地がよく見えるようになったことです。

 

敷地南西の端からの光景。ほとんど植栽が消えています。

 
リニューアル前の姿をご覧になったことがある方は、ぜひそのときの光景を思い出してみてください。

上の写真は、リニューアル前は小道つきの植栽エリアがあった場所です。ずいぶんスッキリしましたよね!

植栽や敷地を囲う柵によりやや閉鎖的な雰囲気があった前庭ですが、このたび開館当時の開放的なオープンスペースらしい姿を復原。上野公園との連続性をもたせるために、開館当時のように透過性のある柵にしたことで、園路側からも美術館側からも視線が通るようになりました。

 

向かい側の東京文化会館もよく見えるように。

 



ル・コルビュジエが考えた本館へのアプローチと彫刻作品の配置も、開館当初の姿にできる限り近づけられました。

まず、かつて正門として扱われていた西側(噴水広場側)の入り口が当初の状態に近い形に。あわせて、この西側の入り口から来館者を誘導するように引かれた床のラインも復活しました。

 

西側の入り口から《地獄の門》方向にのびるグレーのライン。

 

床のラインはまっすぐ東側にある《地獄の門》の方向にのびています。ラインに沿って右手にロダンの《考える人(拡大作)》、左手に《カレーの市民》を鑑賞しながら進むと、ラインは左に分岐して人々を本館の中へ誘います。

 

ラインの先にある《地獄の門》 / オーギュスト・ロダン《地獄の門》松方コレクション

オーギュスト・ロダン《考える人(拡大作)》松方コレクション / 西側の入り口から入った来館者のほうを向いて設置されています。

オーギュスト・ロダン《カレーの市民》

ラインは途中で本館のほうへ分岐。

 

設計の際、ル・コルビュジエはまず中心に核となる部屋をつくり、コレクションの増加とともに展示スペースを外側にぐるぐる螺旋を描く形で増築していくという「無限成長美術館」を構想していました。

同館の福田京専門員は、「前庭から無限成長美術館のコンセプトであるピロティ(柱だけで構成された吹き抜けの空間)へ、そして中央のホールへと流れるように動線が続いていく。歩きながら視線を移すと次々に光景が変わっていき、矢印などのサインなどを使わなくても自然に進む方向へ誘うという手法を、ル・コルビュジエは本館の中でも多く用いています」と話します。

また、前庭の床には動線のラインのほかにも、細い目地があみだくじのように広がっていることに気づきます。

 

前庭一面に広がる目地。

 

こちらは、ル・コルビュジエが人体の寸法と黄金比をもとに考案した尺度である「モデュロール」で割り付けられたもの。リニューアル前は、もともとのデザインとしての目地と、コンクリートのパネルを分割する目地が混在して、デザインが分かりづらい状態でした。また、デザインとしての目地の一部も開館当時とは位置が変わっていたそうです。

今回のリニューアルでコンクリートのパネルの目地も美観を損ねないようモデュロールで割り付け、細部にわたって復原されました。

ちなみにこの前庭の床の目地ですが、向かいにある東京文化会館の窓のサッシの割り付けと、幅も位置も完全に呼応しているそうですよ!

東京文化会館の設計は、ル・コルビュジエの弟子であり、国立西洋美術館の設計にも関わった前川國男が手掛けていますから、師匠へのオマージュということでしょうか? 足を運んだ際は見比べてみてください。

 

本館の吹き抜け空間「19世紀ホール」が無料開放!

 

19世紀ホール

 

リニューアルオープンにあたり、これまで有料エリアだった本館の中央にある吹き抜け空間「19世紀ホール」が当面の間、無料で開放されます!(2階展示室へ続くスロープから先は観覧券が必要)

三角形の天窓からやわらかな自然光が入っている様子が印象的な「19世紀ホール」は、空間自体がひとつの彫刻作品のような場所。常設展の起点であり、スロープを上って2階に進むと、ホールをぐるりと取り囲むように回廊型に配置された展示室をめぐることができます。

 

19世紀ホール スロープからの光景

 

こうした「19世紀ホール」を起点とした螺旋状の動線は、まさにル・コルビュジエの「無限成長美術館」のアイデアが反映されたもの。傾斜のゆるいスロープを上れば柱の奥に2階の絵画がチラリ……ここでも移動する間に移り変わる光景を楽しむことができます。リニューアルした前庭とあわせて「19世紀ホール」でル・コルビュジエの世界を体験しましょう。

 

常設展にも新しい仕掛けが!

 

常設展 展示風景

 

実業家・松方幸次郎が築いた「松方コレクション」を核とした、中世から20世紀にかけての西洋絵画やフランス近代彫刻が鑑賞できる常設展についても変化があります。

常設展は、《睡蓮》のモネをはじめ、ドラクロワ、ルーベンス、セザンヌ、ルノワール、ゴッホ、ピカソなどなど、時代を代表する巨匠たちの作品が目白押し。500円で入れるのが信じられないほど見どころ満載の展示となっています。

 

常設展 展示風景

 

田中正之館長によれば、リニューアルにあわせて常設展の展示方法を考え直し、いままでとは少し違った作品の並べ方をしているそう。

「古い時代の絵画の中に近代の作品が混じっているなど、隠し味的な展示になっている。なぜそこに近代の作品が混ざっているのか、何を見せようとしているのかを考えながらご覧いただければ」とのことでした。新たに「Collection in FOCUS」という作品のピックアップ紹介のコーナーも設けられていましたので、ぜひチェックしてみてください。

新収蔵作品や初展示作品など、常設展の新顔であろう作品を内覧会でいくつか見つけましたのご紹介しておきます。

 

(写真左)【新収蔵作品】ベルナルド・ストロッツィ《聖家族と幼児洗礼者聖ヨハネ》 1640年代前半、油彩、カンヴァス

(写真右)【新収蔵作品】ジョン・エヴァレット・ミレイ《狼の巣穴》  1863年、油彩、カンヴァス

(写真左)【初展示作品】フランク・ブラングィン《木陰》 油彩、カンヴァス

(写真左)【初展示作品】ヨゼフ・イスラエルス《煙草を吸う老人》 油彩、カンヴァス

 

せっかくなので常設展をゆっくり巡ってみました。個人的にこの常設展の展示室は、出口のない森に迷い込んだように「あれ、いま自分はどこにいるんだろう」とソワソワした気持ちになる瞬間があるのが楽しい場所です。ところどころに目隠しのように壁が設置されていることが、予想がつかない感じと迷路感を出しているのでしょうか。こんなところでも「無限成長美術館」のエッセンスを感じました。

 

常設展 展示風景

 

2種類の小企画展が同時に開幕!

 

リニューアルオープンにあわせ、4月9日からル・コルビュジエが晩年に制作した絵画と素描を紹介する小企画展「調和にむかって:ル・コルビュジエ芸術の第二次マシン・エイジ ― 大成建設コレクションより」が開催されています。

 

ル・コルビュジエ《奇妙な鳥と牡牛》 1957年、タピスリー 大成建設株式会社所蔵(国立西洋美術館寄託)

 

世界有数のル・コルビュジエのコレクションを所蔵する大成建設の寄託作品を中心とした約20点(展示替え含め約30点)を展示。

初期のピュリスム様式から大きく方向性を変え、自然界の形象と厳格な幾何学的構図の融合、そして人間と機械、感情と合理性、芸術と科学の調和を目指したとされる作品が並び……ということらしいのですが、筆者のレベルでは、そのあたりのことはちょっとよくわかりませんでした……。(動物の絵が愛嬌があってかわいいなーと思いながら鑑賞していました)

建物と絵画とであまりイメージも重ならないなと。ただ、国立西洋美術館をぐるりと一周してきた後にこの小企画展を鑑賞したところ、わからないなりに「ああ、たしかにこの建物と作品の作者は同じなんだろうな」と不思議と納得できました。

 

(写真左から)ル・コルビュジエ《静物》1953年、油彩、カンヴァス 《牡牛XVIII》1959年、グアッシュ、カンヴァス いずれも大成建設株式会社所蔵(国立西洋美術館寄託)

 

聞けば、前庭だけでなく本館の各所にも先ほど話題に出した「モデュロール」の寸法が使われているとか。そのために空間には独特のリズムと調和が生まれている気がします。規則性と意外性が同居する建築と、秩序がないようで全体として調和がとれている絵画は重なる部分があるのかな? などと想像する展示でした。

 

「新収蔵版画コレクション展」展示風景

 

同時に開幕した「新収蔵版画コレクション展」では、4,500点以上にもなる同館の版画コレクションの中から、2015年度以降に新規収蔵された作品を紹介。時代順、地域ごとに作品をまとめ、15世紀末から20世紀初頭まで、デューラーやレンブラントといった巨匠の作品をはじめ、多様な版画表現が楽しめます。

 

ポスタービジュアルはアルブレヒト・デューラーの『黙示録』より《書物をむさぼり喰う聖ヨハネ》が使われています。

(写真右)エドヴァルド・ムンク《魅惑II》 1895年、エッチング、ドライポイント、バーニッシャー/紙

 

6月4日からは「国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」が開催予定

 

記者発表会の様子

 

記者発表会では2022年6月4日より開催予定の、ドイツ・フォルクヴァング美術館との共同プロジェクトから生まれた企画展「国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」の紹介も。

両館のコレクションから、印象派とポスト印象派を軸にドイツ・ロマン主義から20世紀絵画までの100点を超える絵画や素描、版画、写真を展示。自然と人の対話(ダイアローグ)から生まれた近代における自然に対する感性と芸術表現の展開を紹介するものです。

ファン・ゴッホが晩年に取り組んだ風景画の代表作《刈り入れ(刈り入れをする人のいるサン=ポール病院裏の麦畑)》が初来日するほか、世界的に注目を集めているフィンランドの画家ガッレン=カッレラの作品も本邦初公開。マネ、シニャック、ムンク、ホドラー、エルンストといった巨匠たちの共演による多彩な自然表現が楽しめるとのこと。

 

新たなスタートを切った国立西洋美術館。観覧の前には、ル・コルビュジエの思想をじっくり感じられる前庭もぜひゆっくり楽しんでみてください。

 

■国立西洋美術館 インフォメーション

所在地:東京都台東区上野公園7-7
開館時間:9:30〜17:30(金・土曜日は20:00まで)※入室は閉室の30分前まで
公式サイト:https://www.nmwa.go.jp/jp/

・小企画展「調和にむかって:ル・コルビュジエ芸術の第二次マシン・エイジ ― 大成建設コレクションより」
会期:2022年4月9日(土)~9月19日(月・祝)
会場:国立西洋美術館 新館1階第1展示室

・小企画展「新収蔵版画コレクション展」
会期:2022年4月9日(土)~5月22日(日)
会場:国立西洋美術館 新館2階版画素描展示室

・企画展「国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」
会期:2022年6月4日(土)~9月11日(日)
会場:国立西洋美術館

※休館日、観覧料等については公式サイトでご確認ください。

※本記事の情報は掲載日(2022/4/9)時点のものです。

 

 

 

<過去の取材記事>

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