
左からクロード・モネ《舟遊び》(1887)、ゲルハルト・リヒター《雲》(1970)
約1年半の休館を経て本年に4月に再開館を果たした国立西洋美術館。
リニューアルオープン記念となる本展覧会は、開館100周年を迎えるドイツ・フォルクヴァング美術館との共同企画となる。
両館が誇る100点以上の名品を通じ、自然と人の対話から生まれた芸術の展開を辿るという試みだ。
今回は、開催前日に行われた報道内覧会の様子をお伝えする。

会場入口。移ろいゆく自然を表現したという色彩のグラデーションが美しい
本展「 国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホ、リヒターまで 」はドイツ・フォルクヴァング美術館の協力を得て開催される。
フォルクヴァング美術館はドイツ・ハーゲンの銀行員の家に生まれたカール・エルンスト・オストハウス(1874-1921)が19世紀から収集した美術品を核としているが、一方国立西洋美術館もまた松方幸次郎(1866-1950)が欧州で集めた西洋美術を基にした美術館である。
つまり、両館はほぼ同時代を生きた個人のコレクションを基にしているという点で共通している。
オストハウスは炭鉱地帯で知られる地元のルール地方の人々にコレクションを開放し、また松方幸次郎も「共楽美術館」を構想して庶民に西洋文化を楽しむ機会を提供した。
ふたりの実業家が抱いた志は長い時を経て、本展覧会において邂逅した、とも言えるだろう。
自然と人とが、対話によって響き合う

展示会場風景

手前はギュスターヴ・ドレ《松の木々》(1850)

ピエール=オーギュスト・ルノワール《オリーブの園》(左)《風景の中の三人》(右)。展示スペースに配された文章(右上)が趣を添える

右はカール・グスタフ・カールス《高き山々(カスパー・ダーヴィト・フリードリヒにもとづく模写》(1824頃)

中央はジャン=バティスト・カミーユ・コロー《ナポリの浜の思い出》(1870-1872)
本展のテーマは「自然と人」である。
2つの美術館のコレクションという枠で切り出したさまざまな風景や自然のモチーフが、全4章という構成の中で互いに響き合う。ゴッホ、シニャック、クールベ・・・それらの作品の描き手は紛れもない西洋美術たちの「巨匠」たちである。
展示内容について、本展の担当研究員・陳岡めぐみ氏(国立西洋美術館 主任研究員)は、「本展は年代順ではなく、自然というものに繰り返しバリエーションを加えていくような構成とした」と語る。
例えば第1章「空を流れる時間」では絶えず移ろいゆく自然の諸相を示し、第2章「〈彼方〉への旅」では作家自身の五感と結びついた目に見えぬ心象風景を展観。続く第3章「光の建築」では秩序や法則など自然における永続的な要素を抽出し、最終章「天と地のあいだ、循環する時間」では自然の永続的なサイクルと人間の生命をリンクさせたような作品を見出すことができる。
「空」の表現から始まる自然への眼差しは、会場で歩みを進めることで私たち自身の精神の深層へと降り立ち、やがて光や宇宙の表現へと縦横無尽に変化していく。それはまるで、自然そのものをめぐる壮大な旅路のようだ。
100点を超える作品でヨーロッパにおける自然表現を紹介

フィンセント・ファン・ゴッホ《刈り入れ(刈り入れをする人のいるサン=ポール病院裏の麦畑)》(1889)
本展では、ドイツ・ロマン主義から印象派、ポスト印象派、20世紀絵画まで、100点を超える作品によりヨーロッパの自然表現を紹介している。
ゴッホをはじめ、マネ、モネ、セザンヌ、ゴーガン、シニャック、ノルデ、ホドラー、エルンストなど、西洋絵画の巨匠たちの競演による多彩な自然をめぐる表現を堪能できるほか、両館それぞれが所蔵する同じ画家の作品を見比べることができるのもポイントだ。
そうした作品群の中でも白眉と言えるのが、フィンセント・ファン・ゴッホが晩年に取り組んだ風景画《刈り入れ(刈り入れをする人のいるサン=ポール病院裏の麦畑)》だ。晩年、精神を病んで療養中だったゴッホが「自然という偉大な書物の語る死のイメージ」を描出したという代表的な風景画の一作で、今回が初来日となる。

展示風景より、左からギュスターヴ・クールベ《波》(1870)と《波》(1870頃)
第2章で展示されるギュスターヴ・クールベの《波》もまた、単なる客観的事象を越えた、峻厳な自然の実相を私たちに示してくれる。
フランスの山岳地帯に育ったクールベにとって、長いあいだ未知の世界であった海。彼は1860年代後半から、この雄大なモチーフに本格的に取り組むようになったという。黒い青緑色をした海と灰色がかった茜色の空という色彩対比、さらに絵筆とペインティングナイフによる質感の描き分け・・・簡潔な構図でありながら作家のすぐれた技量がうかがえる作品だ。

展示風景より、左からクロード・モネ《睡蓮、柳の反映》《睡蓮》(いずれも1916)
最終章において圧倒的な存在感を放つのが、クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》《睡蓮》、さらにドイツの女性写真家エンネ・ビアマンが一輪の睡蓮を撮影した写真が同時展示された空間である。
近年フランスで発見され、修復作業を経て2019年に初公開されたモネの《睡蓮、柳の反映》(1916)と有名な《睡蓮》が同空間で響き合い、私たちの心に不思議な感慨を呼び起こす。ここに示された自然の数々は非常に近接した、ミクロの視点によるものであり、壮大な「空」の展示から始まったこの旅路が終盤に差し掛かったことを感じさせる。
陳岡氏が「作品が出発点となった」と語る本展は、あくまで個々の作品が主役であるには違いないが、壁面には同時代を生きた詩人や芸術家たちの言葉が散りばめられ、さらに展示空間の各所にも冒険的な仕掛けを施したという。
展覧会のオープニングに際して陳岡氏は
「作品それぞれが対話をし合うような構成を心がけました。作品、テキスト、空間。全体の響き合いの中で展覧会を味わっていただければと思います」
と、本展の見どころについて総括した。
ぜひ、会場に足を運んで自然と人の響き合いを肌で感じていただければと思う。
記事提供:たいとう文化マルシェ
開催概要
会期 | 2022年6月4日(土)~9月11日(日) |
会場 | 国立西洋美術館 |
開館時間 | 9:30〜17:30 毎週金・土曜日:9:30〜20:00 ※入館は閉館の30分前まで |
休館日 | 月曜日、7月19日(火) (ただし、7月18日(月・祝)、8月15日(月)は開館) |
観覧料 | 一般2,000円、大学生1,200円、高校生800円 混雑緩和のため、本展覧会は日時指定を導入いたします。 チケットの詳細・購入方法は、 展覧会公式サイトのチケット情報をご確認ください。 ※中学生以下は無料。 ※心身に障害のある方および付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)。 |
展覧会公式サイト | https://nature2022.jp/ |