2016年10月18日(火)から2016年11月27日(日)まで、東京国立博物館にて特別展「禅—心をかたちに—」が開催されます。
10月17日に報道内覧会が開催されましたので、展示の様子をお伝えいたします。
「丸くすべすべした瓢箪で、ねばねばしたナマズをおさえ捕ることができるか?」
これは、禅宗において修行者が悟りを開くための課題として与えられる、「禅問答」というものです。室町幕府4代将軍の足利義持は、この禅問答を禅僧で絵師でもある大巧如拙に描かせ、31人の僧侶に漢詩の形式で答えさせました。
これに対し、ほとんどの僧侶は「瓢箪でナマズはとらえられない」という意味の答えを書き残しています。「ぬるぬるした瓢箪」、「ねばねばしたナマズ」は一体何をあらわしているのでしょう?
あなたなら、どう答えますか?
禅宗は中国から伝えられた仏教の一派であり、「心」をテーマにした宗教です。およそ1500年前、達磨大師によってインドから中国へ伝えられた禅宗は、鎌倉時代にわが国に伝来し、武家のみならず、天皇家や公家においても広く支持され、日本社会と文化に大きな影響を与えました。
今回の特別展「禅―心をかたちに―」は、臨済宗・黄檗宗の源流である臨済義玄禅師の1150年遠諱、ならびに日本における臨済宗の中興の祖である白隠慧鶴禅師の250年遠諱を記念して企画されました。国宝24件、重要文化財134件をふくむ肖像や仏像、絵画など多彩な名宝をご紹介し、ありし日の禅師たちの言葉・姿・行動を伝えてくれる、大変貴重な展覧会です。
それでは、展示風景をご紹介していきます。
第一章 禅宗の成立
ここでは「禅宗の成立」として、達磨禅師がインドから渡来し、中国において禅宗が成立するまでの過程を、歴代の祖師像を中心にたどることができます。
会場を入った私たちを出迎えてくれるのは、目をかっと見開いた、気迫の感じられる表情の達磨禅師。これは日本における臨済宗の中興の祖であり、近世の禅画を代表する存在でもある白隠禅師が、禅宗の始祖である達磨を描いたもの。この肖像は白隠の代表作でもあることから、本展覧会を象徴するものとして、会場入口に展示されています。
他にも、ぐっと拳を握りしめ、今にも「喝!!」と叫び声を上げそうな臨済義玄(臨済宗の開祖)の肖像も印象的。棒で修行者を叩く、というイメージが強い禅宗ですが、その厳しい指導法で臨済義玄につけられたあだ名は「臨済将軍(!)」。
肖像からも、その厳しさの片鱗をうかがうことができますね。
第二章 臨済禅の導入と展開
日本に伝わった禅宗は、現在臨済宗、曹洞宗、黄檗宗の三つの宗派に大きく分かれています。臨済宗は建仁寺派、大徳寺派など、さらに十四に分派していますが、本章ではこれに黄檗宗を合わせて十五派の開祖や本山を、肖像や墨跡などの作品で紹介します。
「とんち」でおなじみ、「一休さん」こと一休宗純の肖像。朱塗りの大太刀をもった姿で描かれています。大太刀の中身はなんと木剣です。「鞘におさまっていれば真剣のようだが、中身は偽物の木刀」。これは当時の僧侶たちを批判する、一休なりのパフォーマンスだったようです。一休の生涯には、他にも破天荒で魅力的なエピソードがもりだくさん。
一休さん愛用の「一節切」。短い尺八です。会場には、この「一節切」の音色を聴くことができるコーナーもあります!
第三章 戦国武将と近世の高僧
基礎学習の趣が強かった一章と二章に比べ、第三章からは、少し肩の力を抜いて禅宗の文化を楽しめる構成になっています。第三章のテーマは、戦国時代。北条早雲、武田信玄、織田信長・・・戦国武将とそのブレーンとして活躍した禅僧たちが紹介されています。
章の後半は、禅画の名手である白隠・仙涯の作品が数多く取り上げられています。こちらは白隠の自画像。会場入口の達磨の顔にとてもよく似ていますね。他にも、画面いっぱいに「寿」の字をしきつめた「百寿字」、墨でただ◯を描いた「円相図」など、禅画らしい「脱力系」の作品が多く、楽しませてくれます。
第四章 禅の仏たち
雰囲気はがらりと変わり、静謐で厳かな佇まいを感じる仏像の世界へ。第四章では、禅宗特有の作風を示す仏像の名品、そして仏画の数々を堪能できます。
中国人の仏師・范道生が制作した、京都・萬福寺の羅漢像。真ん中に位置しているのは「羅怙羅(らごら)」と呼ばれる像で、自分の胸を開き、そこから仏の顔をのぞかせています。
禅宗の有名な言葉に、「即心是仏」があります。すべての事物が私たちの心であり、心こそが、尊い仏なのであるという教えです。この羅怙羅像は、そのことを私たちに教え、諭してくれているのでしょうか。
第五章 禅文化の広がり
日本や中国を行き来した禅僧たちは、禅の思想だけではなく、さまざまな文物や風習をもたらしました。室内を彩った巨大な障壁や屏風、そして禅の精髄とも言える茶の湯・・・。展覧会の締めくくりとなるこの章では、書画や工芸品を通じ、禅宗が日本にもたらした影響を体感することができます。
黒い釉薬をかけて焼かれた陶器製の茶碗、「天目」。当時においても第一級品であり、破格の値段を付けられた一品です。神秘的な美しさと魅力を放つ漆黒の天目は、単に目を楽しませるだけではなく、心をすませばそこに宇宙の景色を読み取ることができると言われてきました。まさに深い禅の精神性がこめられた作品です。
「以心伝心」、口に出して言わなくても、思っていることが相手に伝わること。
世の中で広く使われているこの慣用句も、もともとは菩提達磨の標語、すなわち禅の言葉です。言葉に頼らず、師匠から弟子へと、心をもって心を伝えていく。
私たちはもう臨済や白隠に会うことはできません。しかし、この展覧会で展示されている肖像、墨跡、仏像、絵画は、まるでありし日の禅師の姿、声、そしてたたずまいを伝えているかのようです。心を澄ませて作品に向き合ったとき、もしかしたら私たちの心にも「以心伝心」が起きるのかもしれません。
会期は2016年10月18日(火)から2016年11月27日(日)まで。
また、関連企画として11月27日までの会期中、平成館の1階ラウンジにてチームラボによる禅をテーマにした映像作品を公開!会期の後半にはシンガポールにて公開予定の新作を、本展にあわせて先行発表する予定です!
現代に生きる人々の心の支えとなり、今や海を越えて欧米でも支持されている「ZEN」の世界。是非、この機会に足を踏み入れてみませんか?
開催概要はこちら:
https://home.ueno.kokosil.net/ja/archives/8936