2017年4月4日(火)から6月11日(日)まで、国立科学博物館にて企画展「卵からはじまる形づくり—発生生物学への誘い—」が開催されます。
4月3日に報道内覧会が開催されましたので、展示の様子をお伝えいたします。
「発生生物学」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
実は、私たち人間はもちろん、動物も植物も、その体はたった一つの受精卵からスタートします。その後受精卵は細胞分裂をくり返し、脳や手足を作り出していくわけなのですが、こうした、個体発生の謎と神秘を解き明かそうとする学問が、発生生物学なのです。
医学や農業に深くかかわり、あのiPS細胞に代わる再生医療にも貢献しているという発生生物学。「卵からはじまる形づくり―発生生物学への誘い―」では、国立科学博物館として初めてこの研究成果について焦点を当て、生き物の形作りについて紹介します。
内覧会では、各ブースにそれぞれの専門家の方々が立ち、詳細な解説をしてくれました。
「私たちがお母さんのお腹にいる時に、何が起こったのでしょう?脊椎動物の脳や骨、手足がつくられる時には色々なビックリ、素晴らしいミステリーがありますし、そこには何より美しさがあります」
ユーモアあふれる語り口で導入部分の解説をしてくれた、発生生物学会の代表の一人である高橋さん。
さて、高橋教授が指で指し示した先には早速、ささやかな「ビックリ」が。ぜひ会場で見てみてください!
研究室の臨場感を感じ取れる展覧会場。同時に、アトラクティブな仕掛けと物珍しい生物標本が多数展示され、子供たちも好奇心を持って探索できる構成になっています。
ここでは、ニワトリ、マウス、フェレット、そしてヒトの脳のモデルが展示されています。
脳の発生はすべての脊椎動物で共通ですが、基本の菅から、どの部分が発達するかにより、それぞれの動物に固有の脳ができあがるのだそうです。
高橋教授、ゲームで遊んでいる・・・わけではありません。「HOX遺伝子」の解説中です。HOX遺伝子は私たちの身体づくりに欠かせない遺伝子で、背骨を大まかに番地分けし、それぞれの領域に特有の部位の発生をうながします。例えば、6番のHOX遺伝子は胸椎をつくる働きがありますが、この6番が間違って働いてしまうと、足から肋骨が生えてくる・・・というような羽目になってしまうのです。まさに、身体づくりの鍵を握る遺伝子なのですね。
受精卵を採取する一連の作業について解説する、発生生物学会の代表の一人、武田さん。展示の後半部分では、実際の研究のプロセスや器具なども紹介され、一層、研究現場の雰囲気を感じられる構成になっています。
植物もまた、動物と同じ卵から生まれます。また、魚、カエル、犬といった生き物たちも、発生過程ではほとんど見分けがつかないほど姿が似ている時期があります(「砂時計モデル」)。一見、姿形が大きく異なるように見える生き物でも、その発生過程は驚くほど共通しているのですね。
ところで、細胞が「死ぬ」ことで指になる、というのはご存じですか?アヒルやカルガモのような水かきになるか、それとも5本の指を持った手足になるかは、生まれてくる間に、細胞死「アポトーシス」が起きるかどうかで決まるのだそうです。個人的に、ちょっと衝撃的なお話でした。
タブレットを使った解説など、展示方法には国立科学博物館らしい遊び心、趣向が凝らされています。
実は今回の展示にはもう一つ、重要なテーマが秘められています。
「(発生生物学の)楽しさの延長上に、私たちの病気がなぜ起きるのか、ということがあります。発生生物学は、色々な病気の解明の一番基本となるものなのです」
高橋教授はそう語ります。
例えばHOX遺伝子の研究は、ある種の遺伝病について、論理的にその仕組みを解明することを可能にしました。山中伸弥教授のiPS細胞も、いわば発生生物学の研究の成果であるといえます。
発生を知ることは、病気の仕組みを知ること。
これからも、発生生物学がますます世間の注目を浴びるのは間違いありません。
私たちは、お母さんのお腹の中で何をしていたのだろう?
発生生物学は、私たちにとってとても身近な学問です。
ぜひこれを機会に、その奇跡のような光景を目撃してみてはいかがでしょうか?
開催概要はこちら
https://home.ueno.kokosil.net/ja/archives/13431