2017年4月18日(火)から7月2日(日)まで、東京都美術館にて『ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝 - ボスを超えて -』が開催されます。4月17日にプレス内覧会が開催されましたので、展示の様子をお伝えいたします。
かつて世界中の人々は同じ言葉を使って、同じように話していた。
東の方から移動してきた人々は、シンアルの地に平野を見つけ、そこに住み着いた。彼らは「れんがを作り、それをよく焼こう」と話し合った。石の代わりにれんがを、しっくいの代わりにアスファルトを用いた。
彼らは「さあ、天まで届く塔のある町を建て、有名になろう。そして、全地に散らされることのないようにしよう」と言った。(創世記第11章2-4節)
神に挑む人間の傲慢さを戒める「バベルの塔」の物語。
ネーデルラント絵画の巨匠、ピーテル・ブリューゲル1世はこの有名な聖書の逸話を題材に、後世に残る傑作「バベルの塔」を描き上げました。
天を突く巨塔の壮大な構図。れんがの一つ一つまで徹底的に描く緻密な描写。現代まで続く「バベルの塔」のイメージを確立した、決定的な一枚です。
本展覧会では、オランダのボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館からブリューゲルの「バベルの塔」が24年ぶりに来日。さらに日本初公開となる、奇想の巨匠ヒエロニムス・ボスの「放浪者(行商人)」「聖クリストフォロス」など、16世紀ネーデルラントの絵画・彫刻・版画89点を展示します。
ボスやブリューゲルの油彩は現存作品が少なく、この二大巨匠の競演の実現は容易ではありません。日本では滅多に見られない、大変貴重な機会となります。
それでは、展示風景をご紹介いたします。
B1F I 16世紀ネーデルラントの彫刻〜IV 新たな画題へ
ブリューゲルを「バベルの塔」へと導いたものは何だったのか?16世紀ネーデルラント美術の軌跡から、その謎を紐解く旅が始まります。
本展覧会はB1、1F、2Fと3層に分かれて作品が展示されており、「I 16世紀ネーデルラントの彫刻」を発端に、時系列順(全8章)に16世紀ネーデルラント絵画の名作を鑑賞することができます。
赤、緑、橙・・・フロアの壁はテーマごとにその色調を変え、区分をわかりやすく教えてくれるとともに、幻想的な雰囲気を醸し出しています。
ピーテル・ブリューゲルの作品は、15世紀初頭の巨匠ヤン・ファン・エイクに始まる伝統に連なっています。彼らは、質感・光・空気感に注意を払い、細部への繊細な眼差しを保ちながら、素材表現に妙技を尽くしました。
出発点からすでに並外れた水準にありながら、オランダ絵画はその後150年程の間に、技法・構図・主題の面で大きな発展を遂げることになります。
ヨアヒム・パティニール「ソドムとゴモラの滅亡がある風景」。「バベルの塔」と同じく、『創世記』の逸話を主題にした作品です。
ブリューゲルの「バベルの塔」に関しては、宗教的な訓戒よりも、圧倒的な構図と風景描写が印象に残るのですが、このパティニールの作品も、禍々しい風景が圧倒的な力をもって眼前に迫ってきます。
パティニールは「風景をことさら目立たせ、物語を添え物扱いした」最初の画家とのこと。
確かに、燃え盛る街や険しい岩山が画面の大部分を占めているのに比べ、ロトの一族は右隅にとても小さく描かれています。
1F Ⅴ 奇想の画家ヒエロニムス・ボス〜Ⅶ ブリューゲルの版画
今日、ネーデルラントの生んだ最も有名な画家の一人と目されるヒエロニムス・ボス。彼は伝統に深く根差した題材を選びながら、それを先人たちと異なる自由な筆致で表現し、ネーデルラント絵画に劇的な革新を成し遂げました。
1Fでは、ボスの独創的な絵画作品を皮切りに、「第二のヒエロニムス・ボス」と呼ばれたブリューゲルの版画を数多く展示しています。そのあまりの独創性から、没後、数多のフォロワー(追随者)を生み出したヒエロニムス・ボス。ブリューゲルがそういった画家たちから抜きん出ていたものは何だったのでしょうか?
日本初公開となる、ヒエロニムス・ボスの「放浪者(行商人)」。ボスは、「日常生活の風景を初めて絵に描いた画家」の一人といわれます。
左右不揃いの靴、鏡を彷彿とさせる円形のフレーム、背後に見える娼館。画面の隅々まで何らかの意図を感じさせ、謎が深まります。
彼は一体どこに行こうとしているのでしょう。ボスはこの絵で、何を私たちに伝えようとしているのでしょうか?
ヒエロニムス・ボスの没後、長い年月を経て版画になった「樹木人間」。
・・・樹木人間?
木と人間の合体したような存在の「樹木人間」の胴体には空洞があり、そこでは人々が酒盛りをしています。樹木人間は頭にハシゴを乗せ、足に小舟を履いており・・・と、書いていてよくわからなくなりますが、とてもシュールな世界観が滑稽に描写されています。
同会場には、こちらも日本初公開となる「聖クリストフォロス」も展示されており、こちらも必見です!
2F Ⅷ 「バベルの塔」へ
最上階では、ついにブリューゲルの「バベルの塔」がその全貌を明らかにします。
実はブリューゲルは、少なくとも3回はこの主題を描いています。
1度目はローマ滞在時(バベルの塔の最上部には、コロッセウムの影響があります)、2度目は1563年で、これは現在ウィーン美術史美術館に展示、本展で公開されている「バベルの塔」は最晩年のものです。
なぜ、ブリューゲルはこの主題を好んで描いたのか?
創世記の暗示する通り、いつか罰せられる人間たちの傲慢の象徴なのか、それとも、分裂が生じる以前の調和を描こうとしたのか?
全ては謎に包まれています。
確かなことはこの絵画が、尋常ではないほどの細部に対するこだわりをもって描かれているということ。目を凝らせば、建設現場で働き、往来する人々の姿がはっきりと描き込まれていますし、当時の巨大建築物の作業工程についても、驚くべき緻密さで表現されています。
会場には、東京藝術大学COI研究による拡大複製画も展示されています。
「バベルの塔」は非常に大きく見える作品ですが、実際の寸法は59.9×74.6cmで、それほど大きくはありません。絵画の細部は、この拡大複製画で鑑賞するのがおすすめです。
れんがを昇降機で運ぶ様子。拡大画で見ると、その精密さがよくわかりますね。
東京都美術館から徒歩3分の東京藝術大学 Arts & Science LABでこの「バベルの塔」のプロジェクションマッピングを展示しているとのことなので、お時間ある方はぜひ!
「『バベルの塔』はファンタジーであり、知識であり、物語でもあります。ブリューゲルはこの作品で16世紀の人々の生活を訴え、同時に人類の勇敢な行為を描いています」
内覧会では、『バベルの塔』を前に、ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館館長のシャーレル・エックス氏がその魅力について存分に語ってくださいました。
「この作品についてなら、3週間でも、3ヶ月でも語れるよ」とは本人の弁。
「『バベルの塔』は、答えのない質問を投げかけます。文化の素晴らしさとは何か?それは、答えのない問いかけができることなのです」
会期は2017年4月18日(火)から7月2日(日)まで。
神に挑む人間たち。その勇姿と英知を、目撃する。
あなたもぜひ、バベルの塔が問いかける「謎」に挑んでみてはいかがでしょうか?
会期中、東京都美術館では漫画家・大友克洋さんが描く「INSIDE BABEL」を公開。こちらもお見逃しなく!
開催概要はこちら:
https://home.ueno.kokosil.net/ja/archives/13562
漫画家・大友克洋さんが描くバベルの塔『INSIDE BABEL』が完成!:
https://home.ueno.kokosil.net/ja/archives/13763