国立科学博物館では、2017年9月12日(火)から12月3日(日)までの期間、企画展「フローラ ヤポニカ-日本人画家が描いた日本の植物-」が開催されます。9月11日に内覧会が開かれましたので、内容をレポートいたします。
「ボタニカルアート」という言葉をご存知でしょうか。
ボタニカルアートとは、芸術的な目的ではなく、学術的な目的で描かれた植物のイラストレーションのことを指します。
元来、生物学とイラストレーションは切り離すことができない関係です。生物学では、その生物の形を正確に捉える必要があり、イラストレーションはその役割を担ってきました。
イギリスのキュー王立植物園では、2016年9月から2017年3月までボタニカルアート展「Flora Japonica」が開催されました。これは、日本人画家が日本の植物を描いた作品展で、現地で大きな注目を集めました。
本展では、この「Flora Japonica」の作品から50点が選定され、展示されます。
キカラスウリ(内城葉子)
ボタニカルアートの完成には長い時間がかかります。本展の冒頭に飾られている「ヒロハカツラ」は、植物の採取に2年の月日がかかりました。また、学術的に正確な描写が求められるため、学者のチェックを受けながら絵を仕上げていきます。絵が完成しても描写に誤りがあれば、ボタニカルアートとして扱うことができません。
ヒロハカツラ(石川美枝子)
本展では英国で開かれた「Flora Japonica」の作品のほか、『カーティスのボタニカルマガジン』に掲載されたイラストレーションの中から幾つかの原画が展示されています。
『カーティスのボタニカルマガジン』は1787年に創刊され、230年を経た現在でも刊行されている英国の植物学専門誌です。研究に使える正確さと、アーティスティックな部分を併せ持ち、ボタニカルアートの規範を作った雑誌とされています。『カーティスのボタニカルマガジン』の原画が展示されるのは、英国キュー王立植物園以外では世界で初めてとなります。
1868年に発刊された『カーティスのボタニカルマガジン』
貴重な原画が並びます。
本展の最後に飾られているのは、東日本大震災の際に奇跡的に難を逃れた、陸前高田市の海岸のアイグロマツを描いた「奇跡の一本松」です。世界中の植物の種子を保管する、英国キュー王立植物園運営の「ミレニアムシードバンク」には、この松の種子が寄付されています。
奇跡の一本松(山中麻須美)
植物学において重要な役割を担うボタニカルアート。その重要性は、写真技術が発達した今日においても失われることはありません。なぜなら、写真が1つの個体を機械的に写すのに対し、イラストレーションは人の目を介して複数の個体の情報を総合的に描くことができ、生物の形状把握に適しているためです。
国立科学博物館 植物研究部の遊川知久さんは、イラストレーションはいまだに必要なツールであり、その価値を知ってもらいたいと話していらっしゃいました。
皆様もぜひ足を運んで、通常の絵画とは異なるボタニカルアートの魅力に触れてみてはいかがでしょうか。