2018年1月4日(木)から1月17日(水)まで、東京藝術大学大学美術館にて「宮廻正明展 行間のよみ」が開催されています。
1月4日に報道内覧会が開催されましたので、展示の様子をお伝えいたします。
自然や人間を現代的な感覚と独特の視点で見つめ、裏彩色という古典技法で描いてきた宮廻正明氏。近年では日本画という枠を越えた絵画としてロシア、ハンガリー、ポルトガルなどで個展を開催し、世界各国で活躍を続けています。
さらに、昨年9月から東京藝術大学大学美術館で開催された「素心伝心-クローン文化財 失われた刻の再生」では企画を務めるなど、「クローン文化財」をはじめとする藝大発のイノベーションを社会に発信してきました。
今回の展覧会は宮廻氏の東京藝術大学の教授職退任にあたり開催するもので、卒業制作から近年の新作、本展覧会のために描き下ろした作品まで約70点を展示する過去最大の回顧展となります。
会場風景
総数70点もの作品群が展示された会場。特に順路などは示されず、無限に続く回廊のように「開かれた」空間になっています。伝統的な日本画とは一味異なったアングルから描かれた作品群は、そのモダンさとユニークさが鑑賞者に強烈な印象を残します。
「螺旋」「時空を超える」「うら」など、宮廻氏はその言葉も印象的です。特に「表とウラ」は、とりわけ大事にしてきた言葉だということ。本音とタテマエ、ハレとケなど、物事は相反する二つの要素によって成り立っている。まさに、日本という風土に根ざした独特の哲学です。
そして、この「表とウラ」の思想は実際の彩色技法へと結びついています。
甍海一字/1989年
大学院で日本画の保存修復技術を学んだ宮廻氏は、そこで「裏彩色」という古典技法に出会います。薄い絵絹の表と裏から描いていく技法は江戸時代までは一般的でしたが、油彩画のように和紙の上に絵具を積み重ねる近代の日本画では忘れられた技法となっていました。宮廻氏はこの裏彩色を自作に取り入れ、薄塗りでありながら深みのある日本画を創り出したのです。
陽溜売り/1999年
「たしかにありえる光景ではあるが、私たちの眼には決して映ることのない視界が宮廻の筆によって生み出され、現実と信じさせられてしまうのである」(東京大学名誉教授・青柳正親氏)
イスラムのモスクやシルクロードの風景など、宮廻氏の作品群にはたびたびオリエンタルなモチーフが登場します。これも、アジアの街角の光景でしょうか。画中に描かれた、名称のない情景や人々。しかし、どこかそれを懐かしく感じるのはなぜなのでしょう。
水花火/1998年
宮廻氏は時に、一見日本的な情景を情緒的に表現するのではなく、色彩や形態といった理性的構造によって描写します。
特に「螺旋」という普遍的な形状には魅入られるものがあったようです。一本一本が螺旋状によじれて力を分散する松葉に感嘆したという宮廻氏は、「創造するという行為もまた、自然と螺旋というベクトルを共有している」と語ります。
この作品は代表作のひとつ「水花火」。投網が魚のかたちをしており、遊び心を感じますね。
宮廻氏は「裏彩色は、心に沁みる日本文化の象徴」と語ります。
もともと、「うら」という言葉は「心」を意味していました。まさに心や想いといった精神性を象徴する言葉だったのです。
また、裏彩色はアニメーションのレイヤーとセル画の技法にも通じるという指摘は興味深いものでした。「うら」から「おもて」に至る絵画の技法を、私たち日本人はずっと大切に受け継いでいるということなのかもしれません。
会期は2018年1月17日(水)まで。
「国内でのこのような大規模な作品展はおそらく今回で最後になるかもしれません」と宮廻氏自身が語る本展。
ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
開催概要はこちら:
https://home.ueno.kokosil.net/ja/archives/20734