国立科学博物館では、2018年4月20日(金)~6月17日(日)までの期間、企画展「沖縄の旧石器時代が熱い!」が開催されています。4月19日にプレス内覧会が開催されましたので、その様子をお伝えいたします。
日本の人類史でもっとも古く、もっとも長く、もっとも謎に包まれている旧石器時代。その頃、日本列島で暮らしていた人々は、一体どのように暮らし、そして何を感じていたのでしょうか?
その生前の姿を伝えてくれる旧石器時代人骨の大半は沖縄で発見されていますが、石器などの道具は見つからず、彼らの暮らしぶりは長い間謎に包まれていました。
しかし近年、旧石器時代の発掘調査がおこなわれる中で、彼らのユニークな暮らしぶりを伝える予想外の発見が沖縄の各地で相次いでいます。
本展覧会では、そんな熱気あふれる沖縄旧石器時代の最新の研究成果を紹介し、琉球列島の島々に暮らした私たちの祖先の姿、その生活の実態にせまります。
内覧会では、専門研究員の方々による詳細な展示解説がおこなわれました。ここでは、その一部を会場風景とともにご紹介いたします。
1 沖縄の環境
展示会場は沖縄の旧石器遺跡が発掘される石灰岩の鍾乳洞をイメージした作りになっており、まるで発掘現場に足を踏み入れたかのような雰囲気です。立ち入り制限のコーンの演出が心憎いですね。
第1章のテーマは「沖縄の環境」。琉球列島の位置や環境のパネル解説、島々を形作る岩石の展示により、琉球列島の成り立ちについて紹介しています。
ヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコ・・・琉球列島に生息するさまざまな動物の剥製が並んでいます。
「ここでひとつ、考えてみてほしいことがあります」
と、問いかけたのは展示解説を担当した国立科学博物館の藤田氏。
「何万年も前に旧石器人がこの地にやってきました。さあ、彼らの気持ちになって考えてみてください。 どれを食べたいですか?」
ヘビ、ネズミ、カエル・・・私たち現代人にとっては非常に悩ましい問題です(笑)。
2 島に生きるユニークな動物たち
第2章では化石発掘の現場へと足を踏み入れます。琉球列島のように小さな島々が連なる環境では、島ごとに独自の進化をとげた動物たちが生息していました。
こちらは絶滅したリュウキュウジカとヤシガニの化石。島の環境に適応することで、もともと大型だったシカは小さくなり、もともとヤドカリの仲間だったヤシガニは天敵がいないために殻が巨大化し、寿命も伸びて50歳まで生きるようになったそうです。
3 旧石器人の渡来
1970年、沖縄県の港川遺跡で発見された2万年前の人骨(港川人)は、東アジアで最も残りがよいと言われる旧石器人骨です。港川遺跡では人骨の他にどのようなものが発見されたのかはあまり知られていませんでしたが、本章では港川遺跡の復元模型や発掘された土器のレプリカなどを展示し、旧石器時代の遺跡を幅広く紹介しています。
4 見えてきた旧石器人の暮らし
第4章の冒頭でディスプレイされているのは、今回の企画展の「目玉」とも言える展示品。世界最古の「釣り針」です。
沖縄県南部のサキタリ洞では2009年以来の調査で削り具、ビーズなどさまざまな貝器が発見されていますが、2016年に発表されたこの「釣り針」の発見のニュースは特に大きな反響を呼び起こしました。当時の旧石器人が水産資源を利用していたことを示すもので、その作りの精巧さは驚くべきものがあります。ぜひ、その虹色の輝きを会場でご鑑賞ください!
サキタリ洞から発掘された、非常に多くのモクズガニとカワニナの殻。よく見ると焼け焦げた跡があり、食料だったとわかります。モクズガニは上海ガニの仲間で秋が旬。旧石器人たちは秋を狙って食べていたようで、ちゃんとおいしい時期を知っていたのですね。
「違いのわかる旧石器人」とは、藤田氏の弁。
5 新たな人骨発見!(白保竿根田原)
石垣島の白保竿根田原洞穴遺跡は2010年に発見され、本格的な発掘調査の結果、保存の良い旧石器人骨が大量に発見されました。こちらは一揃いの人骨が発掘された、「白保4号」の全身展示です。発掘時にも全身の骨の位置がほとんど保たれており、死体は「風葬」されていたのではないかと考えられています。
白保竿根田原洞穴遺跡からは4人分の頭の骨が出土しましたが、欠損部分も多く、コンピュータによるデジタル手法によって復元されました。会場では、実際の頭蓋骨と復元模型の展示によって、デジタル復元技術の手法とその利点について紹介されています。
この後、展示会場はさらなる発掘調査の結果を紹介した第6章「まだまだ熱い!沖縄旧石器時代研究」へと続きます。
「貴重な人骨が出てきたから大事なのではなく、どのような状態で、何と一緒に出てきたのか。一緒に出てきたものを分析して昔の生活を復元していく、そのプロセスを研究者は丁寧にやっているのですね。発掘現場の大事さ、面白さ。『こんなささいなモノからストーリーを考えているのか』ということを感じていただけたら嬉しいです」
本展の展示を監修した藤田氏はそのように語ります。
小さな遺物と真摯に、地道に向き合う研究者たち。ぜひ、展示会場を「研究者」「考古学者」のつもりで散策してみてください。そこには、今までは気がつかなかった旧石器時代の魅力があふれているかもしれません。
会期は2018年4月20日(金)~6月17日(日)まで。
沖縄旧石器人の独特な文化を紹介する企画展「沖縄の旧石器時代が熱い!」。ぜひこの機会に足を運んでみてはいかがでしょうか。
開催概要はこちら:
https://home.ueno.kokosil.net/ja/archives/24086