【国立西洋美術館】「ミケランジェロと理想の身体」内覧会レポート

ミケランジェロ・ブオナローティ《ダヴィデ=アポロ》 1530年頃 フィレンツェ、バルジェッロ国立美術館

 

2018年6月19日(火)~9月24日(月・休)の期間、国立西洋美術館で「ミケランジェロと理想の身体」が開催されます。6月18日に内覧会が開催されましたので、その様子をお伝えいたします。

 

その才能は「神のごとし」と称えられ、建築、絵画、詩作などの各分野で名をなした偉人、ミケランジェロ・ブオナローティ(1475〜1564)。彼は自らを「彫刻家」と称し、手がけた芸術の中でも特に彫刻に大きな関心を注いでいました。

 

《ヘラクレス》 紀元前4世紀後半 フィレンツェ国立考古学博物館

イタリア・ルネサンス美術は古代ギリシャ・ローマ美術をその基礎としましたが、ルネサンスの芸術家たちにとりわけ大きな影響を与えたのが、フィレンツェやローマで目にすることができた古代彫刻です。そして、その中でも最も重要な役割を担っていたのが男性裸体彫刻でした。古代オリンピックにおいて競技者の肉体が神に捧げられたように、美の規範は男性の裸体によって示されたのです。

 

「ミケランジェロと理想の身体」では、ルネサンスがよりどころとした男性美に焦点を当て、古代ギリシャ・ローマ時代とルネサンスの作品70点を展観。さらに、初来日となるミケランジェロ作品《若き洗礼者ヨハネ》《ダヴィデ=アポロ》の2点を核に、当時の芸術家たちが追い求めた「理想の身体像」に迫ります。


 ⅰ 

第1章 人間時代-美の規範、古代からルネサンスへ

 

《弓を引くクピド》 2世紀末 フィレンツェ国立考古学博物館



 

《バッカスの頭部》 1515年頃 フィレンツェ、ジョヴァンニ・プラテージ・コレクション

 

《アッティカ赤像式カルピス、ヘラクレスとネメアのライオン》 紀元前490年頃 ローマ、ヴィラ・ジュリア国立博物館、カステッラーニ・コレクション

 

(左)《子どもたちを解放するテセウス》 (右)《ヘラクレスとテレフォス》 いずれも65-79年 ナポリ国立考古学博物館

「人間の時代」と銘打った第一章。会場に足を踏み入れると筋骨隆々とした裸体像が立ち並び、その景観は壮観の一言です。第一章は「子どもと青年の美」「顔の完成」「アスリートと戦士」「神々と英雄」と展示エリアが分かれており、さまざまな観点から古代ギリシャ・ローマの身体表現を展観できる構成になっています。

年齢による表現の違い、彼らにとっての理想を追い求めた「顔」の表現、そして戦士や英雄の中に見出す「神」の似姿。続く中世ではこうした肉体は「隠されるべき」ものとなりますが、ルネサンスの人間中心の世界観が再び古代ローマ・ギリシャの身体表現に光を投げかけることになります。

 

《アメルングの運動選手》 紀元前1世紀 フィレンツェ国立考古学博物館

《アメルングの運動選手》と名付けられた男性裸体像。本作は複製品であるローマン・コピーですが、オリジナルの彫刻は《円盤投げ》の彫刻で有名なミュロンの手によるものと考えられています。注目すべきはその姿勢で、片足に体重をかけて身体の中心軸をずらしたポーズはコントラポストと呼ばれ、古くから姿勢の規範として受け継がれていました。

 

《アメルングの運動選手》について解説する国立西洋美術館の飯塚隆氏

このコントラポストについて詳しく解説してくださったのは、国立西洋美術館 主任研究員の飯塚隆氏。

「これほど何気ないポーズはないと思うのですが、美術史においては大発見とされたものです。これがひとつの大きな理想像となったわけですが、後の時代でもこのコントラポストが忘れられることは決してありませんでした。その時代の理想像がコントラポストにどれぐらい近いのか。極端に離れている場合でも、その『離れている』ということが意味を持ったのです」

 

 ⅱ 

第2章 ミケランジェロ男性美の理想

ミケランジェロ周辺の芸術家《磔にされた罪人》 1550年頃 フィレンツェ、ステファノ・バルディーニ美術館

 

《竪琴を弾くアポロン》 2世紀初頭 フィレンツェ国立考古学博物館

 

ジャンボローニャ《裸体の男性》 1572年頃 フィレンツェ、ホーン美術館

 

ヴィンチェンツォ・デ・ロッシ《ラオコーン》 1584年頃 ローマ、個人蔵、ガッレリア・デル・ラオコーンテ寄託

会場は第2展示室へと移り、いよいよミケランジェロの彫刻が登場する第2章へ。ミケランジェロ作品の他にもフィレンツェ時代の裸体彫刻の数々が展示されており、古代ギリシャ時代に見出されたコントラポストの美が脈々と受け継がれていることを感じさせます。

 

ミケランジェロ・ブオナローティ《ダヴィデ=アポロ》 1530年頃 フィレンツェ、バルジェッロ国立美術館

本展覧会の白眉ともいえる作品、《ダヴィデ=アポロ》。制作中にミケランジェロがローマに赴任したために未完となった本作ですが、ミケランジェロの創作の特徴が凝縮された記念碑的な作品です。

矢筒から矢を抜こうとしているのでしょうか。左手の動作から生まれるねじれが全身を導き、右足は足元の岩に乗せられて優雅なプロポーションを形成しています。まさにコントラポストの美を継承しつつ、さらにセルペンティナータという螺旋の形状がミケランジェロの到達した美の極地を表現しています。

 

ミケランジェロ・ブオナローティ《若き洗礼者ヨハネ》 1495-96年 ウベダ、エル・サルバドル聖堂、ハエン(スペイン)、エル・サルバドル聖堂財団法人

こちらも初来日となる《若き洗礼者ヨハネ》。本作はスペイン内戦によって破壊されてしまいましたが、フィレンツェで完全に近い形に修復されました。ミケランジェロが20歳の頃に制作したもので、曲げられた左足から生まれる躍動感と憂いを帯びた表情のコントラストが、不思議な魅力を感じさせます。

 

彫刻は周囲から鑑賞することが可能

この《若き洗礼者ヨハネ》と《ダヴィデ=アポロ》が並んで展示されるのは世界初の快挙とのこと。また、本会場では彫刻の周囲360°にわたって鑑賞することが可能です。ぜひ、立ち位置を変えてミケランジェロの彫刻を隅々まで堪能してみてください!

 

ⅲ 

第3章 伝説上ミケランジェロ

アスカニオ・コンディーヴィ『フィレンツェの画家、彫刻家、建築家そして貴紳、ミケランジェロ・ブオナローティ伝』 1746年刊 フィレンツェ美術史研究所、マックス・プランク研究所

 

パッシニャーノ《ミケランジェロの肖像》 17世紀初頭 個人蔵

 

エットーレ・サンパオロ《サン・ミニアートの丘のミケランジェロ》 1879年 フィレンツェ、素描アカデミー

最終章では、ミケランジェロを描いた肖像画や記念メダルなどが展示されています。展示物の中には伝記もあり、彼がすでに存命中から神話的人物として扱われ、その姿やエピソードが広く知られていたことがわかります。

こうした「伝説上のミケランジェロ」像は後世まで受け継がれ、ヨーロッパ中の人が彼を称えました。


美術史家 ルドヴィーカ・セブレゴンティ氏

「ミケランジェロは、すでに大理石の中に完成する像の姿を見出していました。そこには、外に表出しようとする生命がある。彼は、それを硬い大理石の中から解放してあげるのが彫刻家の役割なのだと言っていました。それは新プラトン主義()の考え方に通じるものであり、人間の魂が肉体の束縛から解放されてこそ、魂の世界に到達できるという考え方が見出せると思います」

本展を監修した美術史家、ルドヴィーカ・セブレゴンティ氏は、ミケランジェロの彫刻についてそのように解説してくださいました。

「最後に特に強調して申し上げたいのは、《若き洗礼者ヨハネ》と《ダヴィデ=アポロ》が一緒のフロアに並んで展示されるということ。これは世界で初めてのことです。そういった意味で今回の展覧会は非常にユニークで意義があるものだと自負しています」

 

会期は2018年6月19日(火)~9月24日(月・休)まで。
システィーナ礼拝堂の天井画や壁画を描き、入神の域に達したミケランジェロ。そんな彼が完成させた、「理想の身体」とは?
ぜひ、会場に足を運んでご覧になってみてはいかがでしょうか。

 

新プラトン主義・・・後3世紀に成立したギリシャ哲学の一派。プラトンのイデア論を推し進め、万物は一から流出すると考えた。

開催概要はこちら:
https://home.ueno.kokosil.net/ja/archives/23109


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