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【取材レポ】「憧憬の地 ブルターニュ」展が国立西洋美術館で開催。モネやゴーガンはフランスの内なる”異郷”で何を得たのか

 

19世紀後半から20世紀にかけ、各国の画家たちが訪れ制作に取り組んだフランス北西部のブルターニュ地方。古来より特異な歴史文化を紡いできたこの地を題材にした作品を集めた展覧会「憧憬の地 ブルターニュ ─モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」が東京・上野の国立西洋美術館で開催中です。
会期は2023年3月18日(土)~ 6月11日(日)まで。

報道内覧会に参加してきましたので、会場の様子をレポートします。

 

会場入口

展示風景

展示風景

展示風景、ポール・ゴーガン《ブルターニュの農婦たち》1894年、油彩/カンヴァス、オルセー美術館(パリ)

展示風景、リュシアン・シモン《曲馬場》1917年頃、油彩/カンヴァス、大原美術館

久米桂一郎《晩秋》1892年、油彩/カンヴァス、久米美術館

 

世界中の芸術家が憧れたフランスの内なる異郷「ブルターニュ」とは?

 

変化に富んだ雄大な自然、古代の巨石遺構や中近世のキリスト教モニュメント、ケルト系言語である「ブルトン語」を話す人々の素朴で信心深い生活様式。フランス北西部、大西洋に突き出た半島を核とするブルターニュ地方は、16世紀までブルターニュ王国として独立していました。

フランスに併合されたあとも独自の景観や文化を保った、フランスの内なる「異郷」。19世紀にロマン主義の時代を迎えると、新たな画題を求める多くの芸術家たちがブルターニュを目指しました。

本展「憧憬の地 ブルターニュ ─モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」では、画家たちを惹きつけた19世紀後半から20世紀初めに着目し、ブルターニュをモチーフにした絵画や素描、版画、ポスターなど約160点を展示。それぞれの画家たちがこの異郷に何を求め、見出したのかを探っています。展示作品は国内の 30カ所を超える所蔵先と海外2館から集められたもの。

 

第1章「見出されたブルターニュ:異郷への旅」

 

展示は全4章構成です。

第1章「見出されたブルターニュ:異郷への旅」では、19世紀初頭にロマン主義の画家たちがブルターニュを”発見”して以降、画家たちがブルターニュについてどのようなイメージを広めていったのか、イギリスの風景画家ウィリアム・ターナーの水彩画をはじめとした「ピクチャレスク・ツアー(絵になる風景を地方に探す旅)」の流行を背景に生まれた作品から紹介しています。

 

ウィリアム・ターナー《ナント》1829年、水彩、ブルターニュ大公城・ナント歴史博物館



アルフォンス・ミュシャ 左:《岸壁のエリカの花》 右:《砂丘のあざみ》、1902年、カラー・リトグラフ、OGATAコレクション

右はジョルジュ・ムニエ 鉄道ポスター:《ポン=タヴェン、満潮時の川》 1914年、カラー・リトグラフ、大阪中之島美術館(サントリーポスターコレクション)

 

コワフ(頭飾り)をかぶり民族衣装を着た女性像に代表される、ブルターニュのエキゾチックなイメージの理想化・定型化が大衆向けのポスターなどで横溢した一方で、ウジェーヌ・ブーダンやクロード・モネといった旅する印象派世代の画家たちの作品からは、ブルターニュのありのままの自然に真摯な態度で向き合っていたことがわかります。

 

ウジェーヌ・ブーダン《ダウラスの海岸と船》1870-73年 油彩/カンヴァス、ポーラ美術館

 

注目はモネの《ポール=ドモワの洞窟》(1886)と《嵐のベリール》(1886)。

1886年秋、ブルターニュ半島南岸の沖に浮かぶ、野趣あふれる風景で知られるベリール島で2か月半を過ごしたモネは、異なる時間や天候下での海岸の眺めを40枚近いキャンバスで捉えていて、これはそのうちの2作です。

 

クロード・モネ《ポール=ドモワの洞窟》1886年、油彩/カンヴァス、茨城県近代美術館

クロード・モネ《嵐のベリール》1886年、油彩/カンヴァス、オルセー美術館(パリ)

 

描かれているのは、穏やかな海と嵐の海という対称的な風景。《ポール=ドモワの洞窟》はタッチが穏やかで比較的リズミカルになっていますが、《嵐のベリール》はまるで嵐の中、自らの身体感覚が乗り移ったかのように、荒々しく筆が載せられているなど、モネの体験が絵に刻み付けられているかのよう。

モネは1890年代から、刻々と変化する光や大気の一瞬をキャンバスで捉えようと連作を発表し始めましたが、ベリール島での千変万化する天候の断崖を相手にした経験が、絵画連作の思索を深めるきっかけになったのではないか、と考えられているとのこと。

 

第2章「風土にはぐくまれる感性:ゴーガン、ポン=タヴェン派と土地の精神」

 

第2章「風土にはぐくまれる感性:ゴーガン、ポン=タヴェン派と土地の精神」では、ポール・ゴーガンをはじめとする、ブルターニュ地方南西部の小村ポン=タヴェンに逗留した画家たちの作品を展示。

 

第2章展示風景、ゴーガンの作品がズラリと並んでいます。

 

ゴーガンは、パリでの生活苦から逃れるように1886 年から1894 年までブルターニュ滞在を繰り返し、土地の風土や風習、人々の厚いキリスト教信仰や純朴な精神との交感のうちに、自身が芸術に求める「野性的なもの、原始的なもの」の思索を深めていったそう。

 

ポール・ゴーガン《ボア・ダムールの水車小屋の水浴》1886年、油彩/カンヴァス、ひろしま美術館

 

ゴーガンの展示作品は12 点(絵画10 点、版画2 点)あり、本展の見どころの一つになっています。年代順に並べられていて、カミーユ・ピサロ風の印象派様式を留める《ボア・ダムールの水車小屋の水浴》(1886)から、単純化したフォルムと色彩を用いて現実世界と内面的なイメージとを画面上で統合させる綜合主義様式が成熟した様子がうかがえる《海辺に立つブルターニュの少女たち》(1889)など、作風の変遷をたどっていけました。

 

ポール・ゴーガン《海辺に立つブルターニュの少女たち》1889年、油彩/カンヴァス、国立西洋美術館(松方コレクション)

 
《海辺に立つブルターニュの少女たち》は、手を握り合い、画家を見極めるかのように視線を投げる2人の少女を描いた作品。ゴーガン自身がこの地に見出そうとしていた「野性的なもの、原始的なもの」が、非常にたくましく大きな足や、質素な身なりなど、労働と貧しさに忍従する農民の子どもたちの姿に仮託する形で象徴的に表されています。

 

第3章「土地に根を下ろす:ブルターニュを見つめ続けた画家たち」

 

第3章「土地に根を下ろす:ブルターニュを見つめ続けた画家たち」では、19世紀末から20世紀初頭にかけて観光地化・保養地化が進んだブルターニュで、ついに別荘を構えるまでに至り、第二の故郷とした画家に注目。

 

アンリ・リヴィエール 連作「時の仙境」より:《満月》 1901年、カラー・リトグラフ、新潟県立近代美術館・万代島美術館  ※展示は5/7(日)まで

アンリ・リヴィエール 連作「ブルターニュの風景」より:《ロネイ湾(ロギヴィ)》 1891年、多色木版、国立西洋美術館

 

浮世絵版画にインスピレーションを得て、世紀末のジャポニズムをけん引したアンリ・リヴィエールは、独学で多色刷り木版画の制作に取り組みました。ブルターニュの牧歌的な情景に、リヴィエールが親しんだもう一つの“異郷”である日本のイメージを投影したのでしょうか。彼はブルターニュを和訳し、まるで日本であるかのように描いているのが面白い点。

1890年から1894年にかけて手掛けた木版40枚からなる集大成的な連作「ブルターニュの風景」は、繊細な色の諧調が目を惹きつけるばかりでなく、北斎を想起させる構図が日本人の筆者にとってはどこか親しみを覚えるものでした。

 

モーリス・ドニ《若い母》1919年、油彩/カンヴァス、国立西洋美術館(松方コレクション)

モーリス・ドニ《花飾りの船》1921年、油彩/カンヴァス、愛知県美術館

モーリス・ドニ《水浴》1920年、油彩/カンヴァス、国立西洋美術館(松方コレクション)

 

ナビ派を結成したモーリス・ドニは宗教芸術の振興に力を入れていた画家であり、敬虔なキリスト教徒であったことから、厚い信仰に根差すブルターニュの精神風土に共鳴していたといいます。展示でも《若い母》(1919)をはじめ、ブルターニュで過ごす家族の表象をキリスト教の図像伝統に則り描いている作品が目をひきました。

また、ブルターニュの海岸に古代ギリシャの海を投影した《水浴》(1920)など、現実と虚構が重なる地上の楽園のイメージからは、1895年以降、旅重なるイタリア旅行を経て傾倒した古典主義の影響を感じられます。

 

シャルル・コッテ《悲嘆、海の犠牲者》1908-09年、油彩/カンヴァス、国立西洋美術館(松方コレクション)

 

ドニの明るく幸福感にあふれた風景から一転、次の展示では、レアリスムの系譜のなかでブルターニュの自然や風俗を描いた一派「バンド・ノワール(黒の一団)」による、黒を多用する重々しい色調の作品が続きます。

なかでもシャルル・コッテによる横幅約3.5mの大作《悲嘆、海の犠牲者》(1908-09)は圧巻でした。海の悲劇や自然の厳しさに忍従する人々を主題とする作品を多く手掛けたコッテの代表作。海難事故の絶えないブルターニュのサン島の波止場で、溺死した漁師を島民が弔う姿を伝統的なキリスト哀悼図に重ねて描いています。

 

シャルル・コッテ 左:《聖ヨハネの祭火》1900年頃、油彩/カンヴァス、大原美術館

 

コッテの作品ではほかにも、死者に祈りをささげる情景を描いた《聖ヨハネの祭火》(c.1900)が印象的でした。バロック絵画を彷彿とさせる明暗表現が美しく、焚火に照らされて浮かび上がる人々の表情が厳かでありつつ、少しゾッとするような雰囲気があります。

 

第4章「日本発、パリ経由、ブルターニュ行:日本出身画家たちのまなざし」

 

最後のセクションである第4章「日本発、パリ経由、ブルターニュ行:日本出身画家たちのまなざし」では、19世紀末から20世紀のはじめ(明治後期から大正期にかけて)、芸術先進都市パリに留学し、ブルターニュという“異邦の中の異郷”にも足を運び画題とした日本人画家たちに焦点を当てています。

 

久米桂一郎 《林檎拾い》1892年、油彩/カンヴァス、久米美術館

黒田清輝《ブレハの少女》1891年、油彩/カンヴァス、石橋財団アーティゾン美術館

 

日本近代洋画界の重鎮・黒田清輝はブルターニュを訪れた最初期の日本人画家で、東京美術学校教授となる以前、1891年に久米桂一郎とともにブレア島に渡っています。黒田の《ブレハの少女》(1891)は、ブルターニュの少女像としては珍しく髪を下した姿で描かれています。レンブラント風の室内の明暗対比や鮮やかな色彩対比が目をひく、黒田らしい穏やかな画風とは一線を画す荒々しさが魅力的な一作でした。

 

金山平三《林檎の下(ブルターニュ)》1915年、油彩/カンヴァス、兵庫県立美術館

森田恒友《イル・ブレア》1915年、油彩/カンヴァス、埼玉県立近代美術館

山本鼎《ブルトンヌ》1920年、多色木版、東京国立近代美術館  ※展示は5/7(日)まで

 

創作版画の普及に貢献した山本鼎もブルターニュに足を運んだ一人。日本人画家がブルターニュに取材したイメージとしてよく知られている《ブルトンヌ》(1920)は、滞在時のスケッチをもとに、帰国後完成させた木版画です。スケッチにあった背景を単純した地平線を強調した画面構成や,落ち着いた青と黒でまとめられた色調が、アイコニックに描かれたブルターニュの女性の静謐な雰囲気を醸し出しています。

 

岡鹿之助《信号台》1926年、油彩/カンヴァス、目黒区美術館

 

会場にはガイドブックやトランクなどの関連資料も展示されていて、それら資料や作品をとおしてブルターニュを旅するような気分になったことも楽しいポイントでした。

西洋東洋問わずさまざまな画家たちがブルターニュというひとつの大きな主題で制作に取り組んでいますが、異郷に何を見たのか、どのようなアプローチを行ったのかはまったく異なっていました。ブルターニュの風景の美しさを見つめ楽園を幻視した画家、貧しさや海難事故など厳しい現実を作品に昇華した画家。それぞれの個性にあらためて光を当てる意欲的な展覧会でした。

開催は2023年6月11日(日)まで。

 

「憧憬の地 ブルターニュ ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」概要

会期 2023年3月18日(土)― 6月11日(日)
会場 国立西洋美術館
開館時間 9:30~17:30(毎週金・土曜日は20:00まで)
※5月1日(月)、2日(火)、3日(水・祝)、4日(木・祝)は20:00まで開館
※入館は閉館の30分前まで
休館日 月曜日
※5月1日(月)を除く
観覧料(税込) 一般 2,100円、大学生 1,500円、高校生 1,100円

※中学生以下、心身に障害のある方及び付添者1名は無料。チケット購入・日時指定予約は不要です。
※大学生、高校生、中学生以下、各種お手帳をお持ちの方は、入館の際に学生証または年齢の確認できるもの、障害者手帳をご提示ください。

その他、詳細は公式ページでご確認ください。

主催 国立西洋美術館、TBS、読売新聞社
後援 在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本、TBSラジオ
お問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト https://bretagne2023.jp/

※記事の内容は取材日(2023/3/17)時点のものです。最新情報は公式サイト等でご確認ください。

 

 

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