東京都美術館では、2018年10月27日(土)~2019年1月20日(日)の期間、「ムンク展ー共鳴する魂の叫び」を開催しています。
開催に先立ち行われた報道内覧会に参加しましたので、その様子をお伝えします。
ムンクの「叫び」と言えば誰もが知る超有名絵画です。実は「叫び」は連作で複数描かれており、版画以外に4点が現存しています。
今回、日本初来日となるのはムンクの故郷・ノルウェーのオスロ市立ムンク美術館が所蔵するテンペラ・油彩画のもの。繊細な素材を用いていることから、ムンク美術館でも常設はされていません。
本作がムンク美術館外で展示されることは稀であり、本展は実物を日本で目にすることができる非常に貴重な機会となります。
しかし、ムンクの魅力は「叫び」だけではありません。
本展はオスロ市立ムンク美術館のコレクションを中心に、油彩画約60点、版画を合わせた約100点を展示するムンクの大回顧展となります。
以下でそのうち数点をご紹介します。
自画像に見るムンクの生涯
ムンクは生涯に80点以上に上る自画像を手掛けており、描かれた表情や背景が当時の心境を読み解くよすがとなっています。
画家として駆け出しのころの作品。端正な顔立ちに自信の溢れる表情を浮かべています。
このころ恋人とのトラブルやアルコール依存、放浪生活によって引き起こされた妄想症に悩まされていたムンク。
背景の地獄の炎やおどろおどろしい影に、当時のムンクの鬱憤が投影されているようです。
ムンクの人生のターニングポイントとなった年に描かれた1枚。
ムンクはこの年、神経衰弱のためにコペンハーゲンの診療所に数カ月入院します。その後にようやく長年に渡る欧州での放浪を終えることを決意し、翌年祖国ノルウェーに戻ります。明るい色彩が、その後の平穏な生活を予感させます。
豊かな内面描写
ムンクの作品の特徴として、大胆なストロークによる綿密な内面描写が挙げられます。
《メランコリー》と題された本作。
人物の鬱々とした感情が、その表情にのみならず、背景にもにじみ出ているかのよう。
こちらは《叫び》と同じ構図を用いて制作されています。
《叫び》、《絶望》ともオスロのフィヨルドに沈む夕日を背景としていますが、《叫び》が背景と相互に呼応しているように見えるのとは対照に、本作の人物は絶望に深く沈み、周囲から隔絶しているようです。
背景にちらりと映る窓外の明るさとは対照的な暗い屋内。強い愛により男女間の輪郭は破壊され、ふたりは一体化します。
孤独や憂鬱、嫉妬といった負の感情を押し出した作品を多く描いているムンクですが、男女をモチーフとした作品も多数残しています。
特別解説
内覧会では、オスロ市立ムンク美術館で展覧会・コレクション部長を務めるヨン=オーヴェ・スタイハウグ氏による特別解説がありました。
「(連作《叫び》について)120年前には、ばかばかしい、醜い、品がない、という人すらいましたが、現在こうして世界中で注目を集めているのがとても興味深いと思います。《叫び》はムンクが非常に過激であると同時に、実験的な試みをしていたことを表しています。自身の経験に基づいた、不安や絶望といった感情を伝えるために、通常では使用されないような素材(パステルやテンペラ、鉛筆に厚紙)を用いて作成しています。」
「ムンクの多くの作品に共通して言えることですが、人物やその顔を通して、観ている者と対決しているような印象を与え、また一方では遠近法を通して観ている者を引き込むような要素も見られます。自分の感情をドラマチックに表しています」
また、イチオシの作品も教えてくださいました。
「(《叫び》と同室に展示されている)《赤い蔦》は、《叫び》と同じくらい強く、激しい感情を伝えています。素晴らしく、力強い作品です。」
ムンクの作品のみで構成されている、見ごたえたっぷりの「ムンク展ー共鳴する魂の叫び」は東京都美術館で2019年1月20日まで開催されています。
どっぷりとムンクの世界に浸ってみてはいかがでしょうか。
※作品はすべてオスロ市立ムンク美術館蔵 All Photographs ⓒMunchmuseet
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