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【会場レポート】「永遠の都ローマ展」が東京都美術館で開幕。古代ヴィーナス像の傑作が初来日

 

ローマの中心にあるカピトリーノ美術館の所蔵品を中心に、建国から近代までのローマの美の歴史を紹介する展覧会「永遠の都ローマ展」が東京都美術館で開幕しました。会期は2023年9月16日(土)~12月10日(日)まで。

会場を取材しましたので、展示の様子をレポートします。

 

展示風景

展示風景

展示風景、左からアントニオ・カノーヴァ《パイエーケス人の踊り》1806年、ヴィラ・トルロニア美術館蔵/ 《マイナスを表わす浮彫の断片》前1世紀末-後1世紀、カピトリーノ美術館蔵

 

ローマの栄光と美の歴史をたたえるカピトリーノ美術館

 
古代には最高神ユピテルら神々を祀る神殿がそびえるなど、長くローマ人たちの宗教的・政治的・文化的な中心地であり、現在はローマ市庁舎が置かれるカピトリーノの丘。そこの丘に建つカピトリーノ美術館は、世界的にもっとも歴史の古い美術館の一つに数えられます。

1471年ルネサンス期の教皇シクストゥス4世が、ローマ市民の自尊心を鼓舞するとともに自身が古代ローマの正統な継承者であることを示す目的で、4点の古代彫刻をローマ市民に寄贈・カピトリーノの丘に設置したことをきっかけに同館が設立。1734年からは一般に向けて公開がはじまり、ローマで発掘された古代遺物やヴァティカンに由来する彫刻、またローマの名家が所有する美術品など、充実したコレクションを築いていきました。

本展はカピトリーノ美術館の所蔵品を中心に、建国神話からはじまり、古代ローマ時代の栄光、芸術の最盛期を迎えたルネサンスからバロック、芸術家たちの憧れの地となった17世紀以降まで、「永遠の都」と称されるローマの壮大な歴史と芸術を約70点の彫刻、絵画、版画などを通じて紹介するものです。

年代順に続く全5章のセクションのほか、岩倉使節団が同館を訪ねてちょうど150年目の節目となることにちなみ、同館と日本の交流を紹介する特集展示も設けられています。

 

前753年に建国したとされる古代ローマの伝承や神話を紐解く第1章「ローマ建国神話の創造」では、出発点としてローマのシンボルともいえる有名な作品《カピトリーノの牝狼(複製)》が置かれていました。

 

《カピトリーノの牝狼(複製)》20世紀(原作は前5世紀)、ローマ市庁舎蔵

 

本作のオリジナルは、カピトリーノ美術館の始まりである4点の古代彫刻のうちの一つ。紀元前5世紀に作られたものとされています。(出展されているのはローマ市庁舎が所蔵する後世の複製作品)

ローマ建国神話を題材にした詩人ウェルギリウスの叙事詩 『アエネイス』 のエピソードのうち、軍神マルスと巫女レア・シルウィアの間に生まれた初代ローマ王ロムルスとその弟レムスを育てた牝狼の物語に基づいています。

本来は牝狼のみだったものが、ルネサンス期に乳を飲む双子の彫像が付け加えられたとのこと。牝狼の見開いた目や毛並みなどが様式的ながら繊細に表現されています。

双子に乳を与える牝狼の像はローマ市内に祀られ、建国神話の体現として帝国の歴史とともに歩み続けることで、公共記念碑や貨幣といった公的美術、詩的な装身具、祭礼美術に至るまでさまざまな媒体の図像表現に影響を与えていきました。《カピトリーノの牝狼》は後世で加えられた双子像を除き、そのアイコンともいえる現存作品なのです。

 



《ドラクマ銀貨:ヘラクレス(表)、双子に乳を与える牝狼(裏)》(上は裏面)前265年または以後(共和政期)、カピトリーノ美術館蔵

 

シンボルとしての絶大な影響力を示すように、第1章ではほかにも《ドラクマ銀貨》《ボルセナの鏡》(前4世紀)など、牝狼の姿が描かれた作品がいくつもありました。

 

第2章「古代ローマ帝国の栄光」の展示風景

 

前27年以降の帝政期には、帝国の繁栄とともに肖像が発展。威厳ある表情や写実性のある歴代ローマ皇帝の肖像は、プロパガンダの手段として機能したほか、一般市民の私的肖像にも影響を及ぼし、さまざまな流行の装いやポーズ、髪型などを普及させたといいます。

第2章「古代ローマ帝国の栄光」では、古代ローマ帝国の礎を築いたユリウス・カエサルやアウグストゥスの頭部彫刻をはじめ、それぞれの「時代の顔」を通じて栄光の時代をたどりながら、当時の文化的、社会的、政治的な変化を伝えています。

 

《アウグストゥスの肖像》1世紀初頭、カピトリーノ美術館蔵

 

ここではカピトリーノ美術館が所蔵する2体の《コンスタンティヌス帝の巨像》の断片を、精巧な原寸大複製で展示していて迫力がありました。《コンスタンティヌス帝の巨像》もまた、教皇シクストゥス4世がローマ市民に寄贈した古代彫刻の一つです。

 

《コンスタンティヌス帝の巨像の頭部(複製)》1930年代(原作は330-37年)、ローマ文明博物館蔵

 

コンスタンティヌス(在位306-337)はローマ帝国でもっとも重要な皇帝のうちの一人。分裂していた帝国を再統一し、キリスト教を国教と認め自らも信徒となった初のローマ皇帝として知られています。

頭部だけで高さ約1.8メートル。そのスケール感はかつての栄華を思わせます。こけた頬、厳格な目の下の涙袋、口元のしわから、晩年の皇帝の姿を捉えたものと考えられているとか。りりしい表情のなかでも、遠くを見通すようにやや上方を向いた瞳が印象的。当時の人々が皇帝に抱いた高い理想を反映したかのように超然とした雰囲気です。

 

《コンスタンティヌス帝の巨像の頭部(複製)》1930年代(原作は330-37年)、ローマ文明博物館蔵

 

頭部のほか、左足、左手、さらに近年になってルーヴル美術館で発見された左手の人差し指も、本展のために新たに複製されたものが一緒に紹介されていました。

 

《コンスタンティヌス帝の巨像の左手(複製)》1996年(原作は330-37年)、ローマ文明博物館蔵

 

 

門外不出の至宝《カピトリーノのヴィーナス》を見逃すな!

 
また、第2章に展示された《カピトリーノのヴィーナス》は本展の一番の注目作品です。

 

《カピトリーノのヴィーナス》2世紀、カピトリーノ美術館蔵

 

古代ギリシャの偉大な彫刻家プラクシテレスが前4世紀に制作したアフロディテ(ヴィーナスと同一視されるギリシャ神話の愛の女神)の像に基づいた2世紀の作品です。

ヴィーナス像の典型的な恥じらいのポーズをとり、優美な体の曲線とふっくらとした肌の質感の表現が非常に美しく魅力的。よく見ると、頭の天辺で蝶結びのように髪をまとめて、うなじのあたりでもシニョンを作り、さらに二股に髪を下すというちょっと面白い髪形をしています。

 

《カピトリーノのヴィーナス》2世紀、カピトリーノ美術館蔵

 

ミロのヴィーナス(ルーヴル美術館)、メディチのヴィーナス(ウフィッツィ美術館)に並ぶ古代ヴィーナス像の傑作として知られている同作。じつは、カピトリーノ美術館以外に持ち出されるのは1752年の収蔵以来、一時的にナポレオン率いるフランス軍に接収された件を含めて今回で3度目とのことで、まさに門外不出の至宝といえるでしょう。

この先、また日本で見られる機会があるのかわからない必見の作品です。

展示では、ふだん同作が置かれているカピトリーノ美術館の「ヴィーナスの間」と呼ばれる八角形の展示室をイメージした特別空間を用意。同じく床も、同館が位置するルネサンスの巨匠ミケランジェロによって設計されたカンピドリオ広場の模様で演出されていました。

 

《カピトリーノのヴィーナス》2世紀、カピトリーノ美術館蔵

 

なお、1537年から構想がスタートしたミケランジェロの都市計画、都市ローマの壮麗さを体現する広場と建物群によるアイコニックな美術館複合体の展開については、続く第3章「美術館の誕生からミケランジェロによる広場構想」で絵画や版画などを通して詳しく紹介しています。

 

第3章「美術館の誕生からミケランジェロによる広場構想」の展示風景、中央は《河神》3世紀半ば、カピトリーノ美術館蔵

エティエンヌ・デュペラック《カンピドリオ広場の眺め》1569年、ローマ美術館蔵

アゴスティーノ・タッシ《カンピドリオ広場に立つ五月祭のための宝の木》1631-32年、ローマ美術館蔵

 

第4章「絵画館コレクション」では、芸術庇護と学問の振興に力を注いだ教皇ベネディクトゥス14世が、1748年から1750年にかけて収集したイタリア名家旧蔵の絵画コレクションをもとに設立した絵画館のコレクション13点を展示。

 

左はドメニコ・ティントレット《キリストの鞭打ち》、1590年代、カピトリーノ美術館 絵画館蔵

左からピエトロ・ダ・コルトーナ《教皇ウルバヌス8世の肖像》1624-27年頃、《聖母子と天使たち》1625–30年、いずれもカピトリーノ美術館 絵画館蔵

 

イタリアバロックの巨匠ピエトロ・ダ・コルトーナから作者不明のものまで、いずれも16世紀から18世紀に活躍した画家たちの名品ばかり。当時のイタリアで主流だった画題や表現、また芸術のパトロンたちの関心を捉えた絵画とどんなものだったのかを伝えています。

 

17世紀以降、古代遺跡や教会建築の宝庫である都市ローマは、グランドツアーなどを介してイタリア内外の芸術家たちの芸術的霊感源となりました。

第5章「芸術の都ローマへの憧れ―空想と現実のあわい―」では、そんなローマでとくに芸術家やヨーロッパ君主たちを魅了したといわれる、トラヤヌス帝がダキア戦争で勝利したことを記念した約30メートルの古代記念碑「トラヤヌス帝記念柱」に関する版画や模型を展示。また、それら古代ローマ美術を発想源として制作された作品について取り上げています。

 

ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ《トラヤヌス帝記念柱の正面全景》1774-75年、ローマ美術館蔵

《モエシアの艦隊(トラヤヌス帝記念柱からの石膏複製)》1861-62年(原作は113年)、ローマ文明博物館蔵

カスパール・ファン・ヴィッテル《トル・ディ・ノーナの眺望》1682-88年、カピトリーノ美術館 絵画館蔵

ドメニコ・コルヴィ《ロムルスとレムスの発見(ビーテル・パウル・ルーベンスに基づく)》1764-66年、カピトリーノ美術館 絵画館蔵

 

マイセンの素焼き陶器《アモルとプシュケ》は30cmほどの小さな作品ですが、絡ませ合う肉体、とくに互いの頭を優しく抱える、円環を思わせる腕の配置は永遠の愛を象徴しているかのようで、その甘美な曲線にしばし見入りました。

同作はカピトリーノ美術館所蔵の有名な2世紀の大理石彫刻《アモルとプシュケ》に基づく複製。18世紀には古代美術愛好家の増加に伴い、有名な古代彫刻の縮小版を製作する新産業やそれを売買する市場が成長し、同作のような複製が数多く出回ったといいます。

 

《アモルとプシュケ》18世紀、カピトリーノ美術館 絵画館蔵

 

最後のフロアには特集展示「カピトリーノ美術館と日本」のコーナーがあります。

ちょうど150年前にあたる1873年、明治政府が欧米に派遣した岩倉使節団がカピトリーノ美術館を訪問。欧米の美術館・博物館を視察した彼らの経験は、明治政府の博物館政策や美術教育にも影響を与えました。

展示では、使節団の人々が現地で入手したと思われる絵はがきなどをもとに制作された視察報告書『米欧回覧実記』の挿絵や、19世紀初頭の日本の人々がヨーロッパに抱いていたエキゾチックなイメージが伝わる想像図《阿蘭陀フランスカノ伽藍之図》などを紹介しています。

 

右は伝歌川豊春(版元 西村屋与八)《阿蘭陀フランスカノ伽藍之図》1804-18年頃、中右コレクション蔵

 

また、1876年に日本最初の美術教育機関として工学寮美術校(のちの工部美術学校)が誕生した際、西洋美術教育のために招聘されたイタリア人教師らは教材として、有名な彫刻をモデルとする石膏像を持ち込みましたが、その中にはカピトリーノ美術館の石膏像も含まれていました。

その歴史を示すものとして、2世紀に制作されたカピトリーノ美術館所蔵の《ディオニュソスの頭部》と、同作を原作として複製・日本に持ち込まれた石膏像をさらに学生が課題で模写したと思われる《欧州婦人アリアンヌ半身》を並べて展示。時を越えたカピトリーノと日本のつながりを象徴しています。

 

左から《ディオニュソスの頭部》2世紀半ば、カピトリーノ美術館蔵 / 小栗令裕《欧州婦人アリアンヌ半身》1879年、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻蔵

 

世界中の芸術家たちを魅了した都市ローマの壮大な美の歴史に浸れる「永遠の都ローマ展」。ぜひ足を運んでみてください。

 

 

「永遠の都ローマ展」概要

会期 2023年9月16日(土)~12月10日(日)
会場 東京都美術館
開室時間 9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
休室日 月曜日、10月10日(火)
※ただし、10月9日(月・祝)は開室
観覧料(税込) 一般2,200円、大学生・専門学校生1,300円、65歳以上1,500円、高校生以下 無料

※土日・祝日のみ日時指定予約制となっています。(当日の空きがあれば入場可)平日は日時指定予約不要です。
※そのほか、詳細は展覧会公式サイトのチケットページでご確認ください。

主催 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、毎日新聞社、NHK、NHKプロモーション
共催 ローマ市、ローマ市文化政策局、ローマ市文化財監督局
監修 クラウディオ・パリージ=プレシッチェ(ローマ市文化財監督官)
加藤磨珠枝(美術史家、立教大学文学部教授)
お問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト https://roma2023-24.jp

※記事の内容は取材時点のものです。最新情報は展覧会公式サイト等でご確認ください。

 

 

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